『キリエの歌』

アイナ・ジ・エンドが主演で、そのバディ的な役として広瀬すずが出ているという情報を聞き、一種の青春音楽映画を想像しながら見に行ったら、かなりガッツリとした震災映画でもありました。 上映時間が3時間近くある作品になっていますが、これは同じ岩井俊…

東浩紀『訂正可能性の哲学』

『ゲンロン0 観光客の哲学』の続編という位置づけで、第1部は『観光客の哲学』で提示された「家族」の問題を、本書で打ち出される「訂正可能性」という考えと繋げていく議論をしていきますが、第2部は『一般意志2.0』の続編ともいうべきもので、『一般意思2.…

Royal Blood / Back To The Water Below

CD

前作の「Typhoons」が良かったベース/ヴォーカルとドラムという2人組のロックバンドRoyal Blood のニューアルバム。これが4枚目になります。 この手のバンドはどうしても「1stはよかったけど、だんだんネタが無くなって…」となりやすいのですが、このRoyal …

パク・ミンギュ『カステラ』

『ピンポン』、『三美スーパースターズ』などで知られている韓国の作家パク・ミンギュの短編集で、パク・ミンギュが初めての翻訳にもなります。 本書の訳者あとがきでは、訳者の1人が日本では本屋に行っても韓国人作家の本がほとんど並んでいないことを嘆い…

須田努・清水克行『現代を生きる日本史』

『幕末社会』(岩波新書)の須田努と、『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)や『戦国大名と分国法』(岩波新書)などの清水克行の2人が、縄文から現代に至るまでの「日本史」を語った本になります。 もともとは明治大学の文学部史学科以外の学生を対象…

Anjimile / The King

CD

マラウイ共和国にルーツをもつボストン出身のノンバイナリーのアーティスト、Anjimile(アンジマリ)の2ndアルバム。 前作の「Giver Taker」は基本的にはフォークと言う感じで、静かで内省的なアルバムでしたが、今作はそのイメージを大きく打ち破ってきてい…

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

『ジョン・ウィック』シリーズは第1作をレンタルで見た記憶しかなくて、今作も「どうしようかな?」と思っていたのですが、日本を舞台にしていて、ハリウッドが描くトンチキな日本の姿が出てくると知って観に行ってきました。 そうしたら、道頓堀のネオンか…

ミン・ジン・リー『パチンコ』

以前から話題の本でしたが、今回、文庫化されたので読んでみました。上下巻で、上巻の裏表紙の紹介文は以下の通りです。 日韓併合下の釜山沖の小さな島、影島。下宿屋の娘、キム・ソンジャは、粋な仲買人のハンスと出会い、恋に落ちて身籠るが、実はハンスに…

『アリスとテレスのまぼろし工場』

00年代のセカイ系とか10年代の深夜アニメの雰囲気を濃厚にたたえた作品で、さらに福島第一原発事故をモチーフにした作品でもあります。設定にはけっこう無理もありますが、それを含めて00〜10年代をギュッと濃縮した作品だという印象を持ちました。 ちなみに…

飯田高、近藤絢子 、砂原庸介、丸山里美『世の中を知る、考える、変えていく』

サブタイトルは「高校生からの社会科」。このサブタイトルからは同じ有斐閣から出た『大人のための社会科』を思い出しますが、いくつか違っている点もあります。 morningrain.hatenablog.com まず、「大人のため」が「高校生から」となっていることからもわ…

アダム・プシェヴォスキ『民主主義の危機』

「民主主義の危機」について書かれた本は数多くありますが、本書の特徴は民主主義のミニマリスト的定義、「平和的な政権交代の可能性があれば民主主義」という考えのもとで書かれている点です。 多くの論者が民主主義を理想し、「あれも足りない、これも足り…

崎山蒼志 / i 触れる SAD UFO

CD

崎山蒼志のメジャーでの3rdアルバム。 前作の「Face To Time Case」は"嘘じゃない"をはじめとしてメロディは良かったのですが、ストリングスなどを用いたせいで持ち前のグルーヴ感が隠れてしまったように感じていて、さあ今回は?という思いで聴きました。 …

『兎たちの暴走』

中国の女性監督シェン・ユーが、母娘が娘の同級生を誘拐した実在の事件に着想を得て撮ったという作品。 映画の冒頭は我が子を誘拐された親たちが警察に行くか行かないかで揉めるシーンから始まり、そこから過去に戻って誘拐事件にいたるまでの顛末が示されま…

チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』

1978年に出版されて以来、ロングセラーとなっている韓国の小説です。 今調べてみたら、赤川次郎の『セーラー服と機関銃』がこの年、村上春樹の『風の歌を聴け』が翌年の79年になります。 70年代後半は、日本だと少しポップな感じの新しい文学が出てきた時代…

前田正子・安藤道人『母の壁』

待機児童問題が深刻化していた2017年に、都市郊外のA市で行った母親へのアンケートをもとにした本。 著者の一人の前田正子は中公新書から『保育園問題』という本を出しており、もう1人の著者の安藤道人は公共経済学を専門とする経済学者になります。 ですか…

『バービー』

監督が『レディ・バード』と『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグということで期待して観に行ったんですが、期待通りに面白かったですね。 まず、いろいろと解釈したくなる映画ですが、そうした解釈なしでもキュートなマ…

大塚啓二郎『「革新と発展」の開発経済学』

長年、開発経済学の研究者として活躍し、『なぜ貧しい国はなくならないのか』といった開発経済学の入門書も書いている著者による自らの研究の総決算的な本(ただし、本書の書きぶりをみてると「総決算」というのは早いかもしれませんが)。 現場、実証、理論…

『君たちはどう生きるか』

ようやく見てきましたけど、とにかくリッチなアニメですね。 新海誠の映画の背景は凝ってますし、細田守の例えば『龍とそばかすの姫』の仮想世界の画もすごかったですし、『鬼滅の刃』の戦闘シーンの作画がすごい! という話もわかりますが、この作品の、あ…

岸政彦/梶谷懐編著『所有とは何か』

私たちはさまざまなものを「所有」し、その権利は人権の一部(財産権)として保護されています。「所有」は資本主義のキーになる概念でもあります。 同時に、サブスクやシェア・エコノミーの流行などに見られるように、従来の「所有」では捉えきれない現象も…

『イノセンツ』

ノルウェー人の監督がノルウェーの郊外の団地を舞台に撮ったサイキックスリラーですが、監督(エスキル・フォクト)が大友克洋『童夢』からの影響を公言しているだけあって、これは『童夢』。 特にラストシーンは監督の『童夢』愛が炸裂しており、『童夢』を…

パク・ソルメ『未来散歩練習』

パク・ソルメについては、同じ白水社の〈エクス・リブリス〉シリーズから『もう死んでいる十二人の女たちと』という日本オリジナル短編集が、本書と同じ斎藤真理子の訳で出ています。 『もう死んでいる十二人の女たちと』の冒頭の「そのとき俺が何て言ったか…

大江健三郎『水死』

先日亡くなった大江健三郎、実は初期の作品しか読んでおらず(『日常生活の冒険』まで)、やはり後期の作品も読んでみようかと思い読んでみました。 自分は高校生〜大学生にかけて、夏目漱石や森鴎外から始め、芥川龍之介、谷崎潤一郎、川端康成、太宰治、安…

オリヴィエ・ブランシャール『21世紀の財政政策』

現在、欧米は物価上昇に対応するために利上げを続けていますが、それまでは日本を含めた先進国の多くで低金利政策がとられていました。 そうした中で、財政政策や財政赤字に対する考えを変える必要があるのではないかというのが本書の主張になります。 ロー…

スピッツ / ひみつスタジオ

CD

スピッツのニューアルバム。リリースを聞いたときは「「醒めない」以来、かなり久々?」と思っていたら、2019年に「見っけ」がリリースされていたのを完全に見逃していたという…。 というわけで、買う前に一度がっくりきてしまったのですが、このアルバムを…

『怪物』

良かったですが、これはどこまで語るべきなのか難しい映画かもしれませんね。 カンヌでクィア・パルム賞を受賞したことに対して、是枝監督からのコメントの歯切れが悪い感じはありましたが、見るとそれも納得できます。 映画としては、まずは小学5年生の我が…

ローラン・ビネ『HHhH: プラハ、1942年』

2013年のTwitter文学賞海外編1位になるなど話題を集めた本ですが、今回文庫になったので読んでみました。 タイトルの「HHhH」は「Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)」の符丁で、ヒムラーに次ぐ親衛隊のNo.2にして、ユダ…

安中進『貧困の計量政治経済史』

貧困について、過去の状況を計量的に分析した本になりますが、本書の特徴は対象が日本の近代という点です。 貧困の歴史について欧米中心に計量的に分析した本としては、アンガス・ディートン『大脱出』などいくつか思いつきますが、近代日本を対象とした本は…

東島雅昌『民主主義を装う権威主義』

「民主主義」の反対となる政治体制というと「独裁」が思い浮かびますが、近年の世界では金正恩の北朝鮮のようなわかりやすい「独裁」は少なくなっています。 多くの国で選挙が行われており、一応、政権交代の可能性があるかのように思えますが、実際は政権交…

『TAR/ター』

まず、この映画で女性指揮者を演じた主演のケイト・ブランシェットは素晴らしい! ケイト・ブランシェットはこの映画で「マエストロ」と呼ばれる現代のトップ指揮者を演じているわけですが、冒頭のトークショーのシーンから、まさにマエストロにふさわしい佇…

The National / First Two Pages of Frankenstein

CD

2017年の「Sleep Well Beast」で、Radiohead以来、複雑化をつづけてきたロックの1つの頂点を極めた感があったThe Nationalのニューアルバム。 前作の2019年発売の「I Am Easy to Find」では、女性ボーカルを多数featuringして、さらなる複雑化を志向しました…