柴崎友香『千の扉』

ここ最近、継続している柴崎友香の小説ですが、これもなかなか面白かったです。 作中で明示されているわけではありませんが、新宿の都営戸山ハイツを舞台にした作品で、タイトルの「千の扉」とはとりあえずは団地のたくさんの扉を表しているととれます。 主…

Daughter / Stereo Mind Game

CD

Daughter、7年ブルのニューアルバム。途中で、ボーカルのエレナ・トンラのソロであるEx:Re名義のアルバムはありましたけど、Daughter本体は本当に久々ですね。 そして、期待通りにいい。 Ex:Reのアルバムも良かったですが、やはりDaughter本体になると、イゴ…

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

子どもと一緒に見てきましたが、小1の次女はゲラゲラ笑ってましたし、楽しい映画でした。 ピーチ姫はウーパーウーマンでマリオ顔負けの大活躍するので、別に「反ポリコレ」というわけではないのですが、インテリに評価されそうな要素をほぼ入れていないのは…

竹内桂『三木武夫と戦後政治』

実は本書の著者は大学時代のゼミも一緒だった友人で、いつか書いた本を読んでみたいものだと思っていたのですが、まさか「あとがき」まで入れて761ページ!というボリュームの本を書き上げてくるとは思いませんでした。 タイトルからもわかるように三木武夫…

ウィリアム・トレヴァー『ディンマスの子供たち』

国書刊行会の「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」の第4弾は、トレヴァー初期の長編になります。 短編の名手として名高いトレヴァーですが、長編でもその辛辣な人間観察や、平凡な人間に潜む狂気を引きずり出すさまは十分に堪能できます。 ただ、初期の…

柴崎友香『待ち遠しい』

『寝ても覚めても』、『わたしがいなかった街で』がとても面白かった柴崎友香の2019年に刊行された小説が文庫になったので読んでみました。ちなみに「毎日文庫」というマイナーなレーベルのためか、出た当初は近所の本屋に見当たらず、しばらくしてから平積…

鶴岡路人『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』

去年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、多くの専門家が状況の変化に伴走する形でテレビや新聞、雑誌などのメディアでこの戦争に関する分析を提供してきましたが、著者もそうした専門家の一人です。 もともと著者は欧州現代政治や国際安全保障…

RAYE / My 21st Century Blues

CD

RAYE(レイ)はイギリスのシンガーソングライターで、イギリス人の父親とガーナとスイスをルーツに持つ母親から生まれたそうです。2010年代半ばから活動をしており、注目も浴びていましたが、今作が初のフルアルバムになるそうです。 歌詞をきちんと聴いてい…

西谷公明『ウクライナ 通貨誕生』

著者の西谷公明氏からご恵投いただきました。どうもありがとうございます。 本書は『通貨誕生 ー ウクライナ独立を賭けた闘い』(都市出版、1994)が岩波現代文庫で文庫化されたものになります。巻末には2014年のユーロマイダン革命をうけて書かれた「誰にウ…

小宮京『語られざる占領下日本』

去年、NHKスペシャルの「未解決事件」で、松本清張の『小説 帝銀事件』と『日本の黒い霧』をベースにして帝銀事件がとり上げられたのを見た人も多いかと思います。 松本清張の推理は犯人は731部隊の関係者でGHQの圧力によって捜査が中止されたというものでし…

『シン・仮面ライダー』

賛否両論という感じですが、ケレン味の溢れた作品で個人的には楽しめました。 もともと小さい頃は仮面ライダーが苦手で(自分が見たのは村上弘明がやってたやつ)、断然ウルトラマン派でしたけど、『シン・仮面ライダー』と『シン・ウルトラマン』を比べると…

陸秋槎『ガーンズバック変換』

日本の新本格ミステリに大きな影響を受けて小説を書き始めた中国人作家による短編集。ジャンルとしては本作はミステリではなくてSFになります。 日本の小説から大きな影響を受けているだけではなく、表題作の「ガーンズバック変換」は日本を舞台に、しかも香…

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

今の時期に主要人物を中国系で固めて娘の同性愛などを取り込む意識の高さと、「マサルさんか?変態仮面か?」という意識の低さが同居している怪作。 映画.comのあらすじ紹介は次の通り。 経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と…

Young Fathers / Heavy Heavy

CD

2018年にリリースされたアルバム「Cocoa Sugar」が素晴らしかったYoung Fathersのニューアルバム。自分が聴き始めたのは前作からですが、今作が4枚目のアルバムということです。 スコットランドのエディンバラで結成されていますが、メンバーの3人のルーツは…

平野克己『人口革命 アフリカ化する人類』

去年の夏に出たときに読もうと思いつつも読み逃していたのですが、これは読み逃したままにしないでおいて正解でした。 著者が2013年に出した『経済大陸アフリカ』(中公新書)は、アフリカの現実から既存の開発理論に再考を迫るめっぽう面白い本でしたが、今…

今村夏子『こちらあみ子』

映画『花束みたいな恋をした』に、人物をdisる表現として「きっと今村夏子さんのピクニックを読んでも、なにも感じないんだよ」という台詞があるのですが、それ以来ちょっと気になっていた今村夏子の作品を初めて読んでみました。 この文庫本には表題作の「…

『別れる決心』

『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』のパク・チャヌク監督の新作。 岩山の頂から転落した男の事件を追う刑事ヘジュンは被害者の妻ソレの反応や行動に引っかかるものを感じて、被疑者として監視するようになるが、その中でだんだんとソレに特別な感情を抱くよ…

ペ・スア『遠くにありて、ウルは遅れるだろう』

独白は混乱とともに終わった。その後。ぴんと張られた太鼓の革を引っかくような息づかいが聞こえてきたが、それは私のもののようだった。(7p) なかなか印象的な一節ですが、これはこの小説の始まりです。 主人公はある部屋で目を覚ましますが、なぜか記憶…

『レジェンド&バタフライ』

木村拓哉が織田信長を演じるというと見る前から満腹感がありますが、木村拓哉主演で織田信長をテーマに1本の映画にまとめるという前提の中では、けっこう面白くできたのではないかと思います。 まず、今作の信長は天才でもサイコパスでもなく、最初はカッコ…

『イニシェリン島の精霊』

物語はアイルランドの孤島のイニシェリン島に住むコリン・ファレル演じるパードリックがいつものように友人のコルムを誘ってパブに行こうとしたところ、コルムから無視されるシーンから始まります。 何かコルムを怒らせるようなことをしたのか? 悩むパード…

Little Simz / NO THANK YOU

CD

前作の「Sometimes I Might Be Introvert」が素晴らしく良かったUKの女性ラッパーLittle Simzのニューアルバム。 前作のような派手なかっこよさはないですが、相変わらずセンスがよいですし、小気味のいいラップに50分という長さでアルバムを通しても聴きや…

玉手慎太郎『公衆衛生の倫理学』

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、まさに本書のタイトルとなっている「公衆衛生の倫理学」が問われました。外出禁止やマスクの着用強制は正当化できるのか? 感染対策のためにどこまでプライバシーを把握・公開していいのか? など、さまざまな問題が浮…

長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

伝説の舞踏家である父の存在を追って、身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーの護堂恒明は、不慮の事故によって右足を失い、AI制御の義足を身につけることになる。絶望のなか、義足を通して自らの肉体を掘り下げる恒明は、やがて友人の谷口…

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

ようやく見てきましたが、映像はさすがでしたね。海を中心とした大自然が活写されているわけですけど、これを現実にある自然そのものではなくて「つくりもの」として作り上げた力というのはすごいと思います。 ただ、自分は普通の3Dで見たんですけど、これは…

須網隆夫編『平成司法改革の研究』

90年〜00年代にかけて日本ではさまざまな改革が行われました。小選挙区比例代表並立制が導入され、1府12省庁制となり、地方自治では三位一体の改革が行われました。それが良かった悪かったかはともかく、これらの改革が日本の社会に大きな変化を与えたという…

柴崎友香『わたしがいなかった街で』

『寝ても覚めても』が「おおっ」と思わせる小説だったので、『きょうのできごと』を読み、さらにこの『わたしがいなかった街で』も読んでみたのですが、この『わたしがいなかった街で』も「おおっ」と思わせる小説ですね。 主人公の平尾砂羽は大阪出身の36歳…

『ケイコ 目を澄ませて』

評判がいいので見てきましたが、まず主演の岸井ゆきのが素晴らしく良かったですね。 岸井ゆきのをちゃんと見たのは朝ドラの「まんぷく」くらいで、年齢不詳な感じながら(中学生くらいの年齢から演じてた?)、安藤サクラ、長谷川博己、松坂慶子の間に入って…

額賀美紗子・藤田結子『働く母親と階層化』(とA・R・ホックシールド『タイムバインド』)

今回紹介する本はいずれも去年に読んだ本で、去年のうちに感想を書いておくべきだったんですが、書きそびれていた本です。特にホックシールドの本は非常に良い本だったのですが、夏に読了した直後にコロナになってしまって完全に感想を書く機会を逸していま…

イアン・マクドナルド『時ありて』

『サイバラバード・デイズ』などの作品で知られるイアン・マクドナルドが描くSFですが、とりあえずはあまりSFっぽさは感じられないかもしれません。 古書ディーラーのエメット・リーが『時ありて(タイム・ワズ)』という詩集を偶然手にすることから始まりま…

2022年の紅白歌合戦を振り返る

TV

あけましておめでとうございます。 今年もやはりブログは紅白の振り返りから。今回の紅白において注目すべき点は、「結果発表→蛍の光」ではなく、「蛍の光→結果発表」というルーティンの変更が行われたことでしょう。 それに伴い、結果発表→キャプテンへの優…