歴史

ニコラ・ヴェルト『共食いの島』

アウシュヴィッツの恐ろしさの一つは「合理的」な虐殺のシステムをつくり上げたところにありますが(ただ、ユダヤ人の虐殺はアウシュヴィッツのような強制収容所だけで行われたのではなく、行動部隊(アインザッツグルッペン)による大量射殺によって行われ…

 ジャレド・ダイアモンド、ジェイムズ・A・ロビンソン編『歴史は実験できるのか』

物理学や化学などの理系の学問では仮説は実験によって確かめられ、科学的な真理として定着していきます。一方、歴史学となるとどうでしょう? ある出来事の原因を探るために実験をすることはタイムマシンでもない限り不可能です。「明治維新の最大の立役者は…

 佐藤卓己『ファシスト的公共性』

『言論統制』(中公新書)、『八月十五日の神話』(ちくま新書)などの著作で知られる著者が1993年から2015年までに発表した論文を集めたもの。 著者が一貫して追求してきた「ファシスト的公共性」というものを、「ドイツ新聞学」、「宣伝」、「ラジオなどの…

 池内恵『シーア派とスンニ派』

池内恵による『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』につづく、新潮選書【中東大混迷を解く】シリーズの第二弾。今回はシーア派とスンニ派というイスラームの宗派対立について、単純にその歴史を紐解くのではなく、そもそも「宗派対立は存在するのか?」、「存在…

 中村元『近現代日本の都市形成と「デモクラシー」』

副題は「20世紀前期/八王子市から考える」。東京の八王子市の1920年代後半から1940年代前半の都市展開と政治情勢を追いながら、普通選挙導入によって政治の世界へと躍り出た「無産」勢力が、地方政治においていかなる動きを見せたのかということを探った本に…

 河西秀哉『近代天皇制から象徴天皇制へ』

GHQが天皇を「象徴」とする憲法草案を示したとき、それを受け取った政府には思いもよらない条項だったと言われていますが、その割には意外とスムーズに象徴天皇制は定着しました(占領期の行動やたびたび内奏を求めたことなど、昭和天皇には「象徴」をはみ出…

 J・R・ヒックス『経済史の理論』(第6章の147ページまで)

けっこう前に読んで面白かった本ですが、その時は特にレビューなどを書いていませんでした。 今回、ちょっと読み直そうと思った+少しまとめる時間ができたので、ヒックス自身が「わたくしの著作のなかでも良い仕事の一つである」(「訳者あとがき」297p)と…

 足立啓二『専制国家史論』

中国社会を日本と対比させながら、中国の社会、政治、経済の特徴を鋭く抉り出した本として評判でありながら絶版で、古書の価格がびっくりするくらい高くなっていた本が、このたびちくま学芸文庫に入りました。 20年前の本で、前半はけっこう硬さも感じられて…

 加藤聖文『国民国家と戦争』

副題は「挫折の日本近代史」。明治維新から第2次大戦での敗戦までの歴史を、「国民国家」という枠組みに注目しながらコンパクトに辿った本になります。 角川選書の1冊ですが、参考文献まで入れても220ページの本で、ボリュームとしては厚めの新書としてもい…

 小林道彦『日本の大陸政策 1895‐1914』

副題は「桂太郎と後藤新平」。桂太郎と後藤新平、そして児玉源太郎が構想した大陸政策を検討し、大正政変の意味をこの構想の挫折に見出しています。 著者の小林道彦については、『政党内閣の崩壊と満州事変―1918~1932』を読んだことがありますが、その膨大な…

 三谷太一郎『増補 日本政党政治の形成』

今年読んだ著者の『日本の近代とは何であったのか』(岩波新書)が面白かったのと、たまたま手に取った岡義武『近代日本の政治家』の原敬について書かれた部分が面白かったこともあって、岡義武の弟子筋にあたる著者が原敬をどのように書いているのかに興味…

 苅部直『「維新革命」への道』

明治維新で文明開化が始まったのではない。すでに江戸後期に日本近代はその萌芽を迎えていたのだ――。荻生徂徠、本居宣長、山片蟠桃、頼山陽、福澤諭吉、竹越與三郎ら、徳川時代から明治時代にいたる思想家たちを通観し、十九世紀の日本が自らの「文明」観を…

 井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作『大人のための社会科』

大人のための社会科の教科書といった体裁の本で企画自体は最近よくある気もしますが、この本は何よりも執筆者が豪華。『多数決を疑う』の坂井豊貴、『自由民権運動』の松沢裕作と、近年の新書の中でもトップクラスの本の著者が入っており、新書読みならば「…

 茶谷誠一『象徴天皇制の成立』

占領期の政治を詳しく見ていくと、占領期に昭和天皇が果たした役割を無視するわけにはいかないと感じますし、敗戦によって大権を失ったはずの昭和天皇がある意味で生き生きと積極的に政治に関わろうとする姿も見えてきます。 基本的に日本国憲法の施行によっ…

 アルフレッド・W・ クロスビー『ヨーロッパの帝国主義』

ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』を読んで、その視点とスケール感に驚いた人も多いと思いますが、このアルフレッド・W・ クロスビー『ヨーロッパの帝国主義』を読むと、『銃・病原菌・鉄』が突然変異的に出てきたわけではなく、今までの研究の積…

 真辺将之『大隈重信』

明治初期の日本の近代化を進めた中心人物であり、二度首相を務め、早稲田大学の創立者としても有名な大隈重信。しかし、意外にも手に取りやすい評伝はあまり見当たらないのが現状です。 そんな中で中公叢書から大隈の評伝が登場。本文だけで450ページ超とい…

 丸島和洋『戦国大名の「外交」』

以前から読もう読もうと思いつつ読んでいなかったこの本、評判に違わず、面白く濃密な本ですね。 著者は、大河ドラマ「真田丸」の時代考証を務めた人物でもあり、Twitterでの解説を楽しみにしていた人も多いと思います。 前半では、外交書状の書かれ方、使わ…

 亀田俊和『南朝の真実』

足利尊氏・直義兄弟が争った観応の擾乱、佐々木道誉や高師直らの婆沙羅大名など、「道徳的」とは程遠いイメージの北朝に対して、「忠臣」楠木正成・正行をはじめとして南朝には「道徳的」なイメージがあるかもしれません。 もちろん、「皇国史観」は過去のも…

 有泉貞夫『星亨』

先日読んだ松沢裕作『自由民権運動』(岩波新書)の巻末で本書が紹介されており、「運動や政治にかかわって生きる、とは何を意味するのかについて思索をめぐらす際に、ぜひ手に取ってほしい一冊である」(228p)と書かれていたので手に取って読んでみたので…

 板橋拓己『黒いヨーロッパ』

副題は「ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋(アーベントラント)」主義、1925~1965年」。副題を聞いてますます本の内容がわからなくなったという人もいるかもしれません。また、副題からものすごく小さな問題を論じているという印象を受ける人もいるかも…

 戸部良一『日本陸軍と中国』

以前、講談社選書メチエから出ていた本が、このたびちくま学芸文庫で復刊。『失敗の本質』や『逆説の軍隊』、『外務省革新派』などの著作で知られる著者が陸軍の「支那通」について分析した本になります。 カバー裏の内容紹介は以下の通り。 中国スペシャリ…

 マーク・マゾワー『暗黒の大陸』

20世紀(第一次世界大戦の終結時から東欧変革まで)のヨーロッパ史を描いた本ですが、扱われている対象の広さといい、歴史を象徴するエピソードを拾い上げるセンスといい、その分析の冷静さといい、これは素直にすごい本だと思います。 読みながら、アーレン…

 池内恵『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』

『イスラーム国の衝撃』(文春新書)の池内恵の本。新潮選書になりますが、タイトルの頭に【中東大混迷を解く】とあって、著者はブックレットシリーズの1冊としてこの本を位置づけているようです。 目次は以下の通り。 第1章 サイクス=ピコ協定とは何だった…

 前田亮介『全国政治の始動』

本書は、明治23(1890)年の帝国議会解説によって現出した、日本列島を単位に、選挙に基づく国民の代表が政府と相対して、全国大の観点から地域的利害の調整・統合について議論する内政のアリーナを「全国政治」と名づけた上で、この全国政治の下で進行した…

 横山和輝『マーケット進化論』

サブタイトルは「経済が解き明かす日本の歴史」。経済史を専攻する経済学者が、日本におけるマーケット(市場)の発展を読み解いたものになります。 もともとは『経済セミナー』に連載されたコラムが元になっており、きっちりとした経済史というよりは、それ…

 シーダ・スコッチポル『失われた民主主義』

サブタイトルは「メンバーシップからマネージメントへ」。アメリカ政治学会会長なども務めたシーダ・スコッチポルが、トクヴィルの見出したアメリカの結社が20世紀後半にいかに変質していってったのかということを分析した本。 同時に、同じようなテーマをと…

 岸本美緒『中国の歴史』

明清の社会経済史を専門にする著者が、放送大学用のテキストとして書いたものを文庫化したもの。 「「中国」とは何か?」といった問から始め、中国における文明の発生から現代にいたるまでの歴史を叙述しています。 本文は300ページほどで、簡略化してある部…

 小林道彦『政党内閣の崩壊と満州事変―1918~1932』

大正期における政党内閣制の確立から五・一五事件による政党内閣の終焉までの政治と軍の関係を丹念に描き出した本。膨大な量の1次史料にあたっており、265ページの本文に100ページ以上の注がつくというバリバリの専門書になりますが、そうした史料の中から立…

 三谷博『愛国・革命・民主』

明治維新の研究などで知られる歴史学者の三谷博が、日本の近代化の経験をひろく世界史の中にあてはめて考えようとした本。世田谷市民大学での講義がもとになったものですが、非常に内容の濃いものになっています。 講義は全6回で、それぞれ「愛国 一」、「愛…

 K・ポメランツ『大分岐』

「なぜ、西欧文明が世界を制覇したのか?」、これは歴史を学んだ者お多くが持つ疑問でしょう。 当然、多くの学者もこの疑問を考え続けており、御存知の通り、マックス・ヴェーバーはプロテスタンティズムという宗教にその要因の一つを見ましたし、D・C・ノー…