海外小説

 ジム・シェパード『わかっていただけますかねえ』

アメリカの作家ジム・シェパードの短篇集。 収録作品は以下の通りになります。 ゼロメートル・ダイビングチーム シルル紀のプロト・スコーピオン ハドリアヌス帝の長城 死者を踏みつけろ、弱者を乗り越えろ 先祖から受け継いだもの(アーネンエルベ) リツヤ湾…

 ロベルト・ボラーニョ『第三帝国』

「詩」と「死」、「失踪」、「暴力」、「ナチス」。 これらはボラーニョの小説に繰り返し登場するモチーフですが、この『第三帝国』もそれは同じ。 タイトルの「第三帝国」はもちろんナチスドイツのことですが、この小説では第二次世界大戦をシミュレートし…

 サーバン『人形つくり』

国書刊行会から刊行が始まった<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの1冊で、先日紹介したL・P・デイヴィス『虚構の男』と同時発売された1冊です。 「リングストーンズ」と「人形つくり」という2つの中編を収録しています。 <ドーキー・アーカイヴ>自体がジャ…

 ハーラン・エリスン『死の鳥』

「世界の中心で愛を叫んだけもの」などで有名なハーラン・エリスンの日本オリジナルの短篇集。収録作品は以下の通りです。 「悔い改めよ、ハーレクィン! 」とチクタクマンはいった 竜討つものにまぼろしを おれには口がない、それでもおれは叫ぶ プリティ・…

 マキシーン・ホン・キングストン『チャイナ・メン』

藤本和子翻訳で『アメリカの中国人』というタイトルで刊行された「小説」が、新潮文庫の「村上柴田翻訳堂」シリーズで復刊。柴田元幸の推薦ということだそうです。 まず、最初に「小説」とカッコを付けたのは、この本はきれいにジャンルに収まらないものであ…

 エドゥアルド・ハルフォン『ポーランドのボクサー』

著者はグアテマラ生まれの作家。「グアテマラ生まれの作家の作品のタイトルがなぜ「ポーランドのボクサー」?」と思う人もいるかもしれませんが、それは著者の一家の複雑な生い立ちに理由があります。 著者のエドゥアルド・ハルフォンはユダヤ系で、母方の祖…

 L・P・デイヴィス『虚構の男』

国書刊行会から刊行が始まった<ドーキーアーカイブ>。若島正と横山茂雄という翻訳家でもあり稀代の読書家でもある二人が、「知られざる傑作」、「埋もれた異色作」をジャンルを問わず5冊ずつ選んだというシリーズになります。 その<ドーキーアーカイブ>…

 ナーダシュ・ペーテル『ある一族の物語の終わり』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの第13弾は、現代ハンガリーの作家ナーダシュ・ペーテルの初期の長編。ちなみにハンガリーは日本と同じ姓−名表記なので、ナーダシュが姓。名前のペーテルは、同じく<東欧の想像力>シリーズの『ハーン=ハーン伯爵夫人のまな…

 スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』

去年発売されたちくま文庫の『きみを夢見て』が音楽をテーマとした小説だったのに対して、こちらは映画をテーマにした小説。 頭に映画『陽のあたる場所』のモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラーの刺青をした、少しというかけっこういかれた男のヴィ…

 ウィリアム・トレヴァー『異国の出来事』

国書刊行会、<ウィリアム・トレヴァー・コレクション>の第二弾は、アイルランド以外の地を舞台にした小説を集めた日本独自編集の短篇集。以前、同じ国書刊行会から出た『アイルランド・ストーリーズ』がアイルランドを舞台にした作品を集めたものだったの…

 バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣』

服は人なり、という衣装哲学を具現したカエアン製の衣装は、敵対しているザイオード人らをも魅了し、高額で闇取引されていた。衣装を満載したカエアンの宇宙船が難破したという情報をつかんだザイオードの密貿易業者の一団は衣装奪取に向かう。しかし、彼ら…

 ドナル・ライアン『軋む心』

<エクス・リブリス>シリーズの最新刊はアイルランドの作家ドナル・ライアンのデビュー作。 ドナル・ライアンはもともとは労働問題を扱う弁護士として行政機関で働いていたそうですが、3年間休職してこの小説ともう一作を書き上げたそうです。ただし、出版…

 ダニエル・アラルコン『夜、僕らは輪になって歩く』

伝説の小劇団の公演旅行は、小さな噓をきっかけに思わぬ悲劇を生む――。内戦終結後、出所した劇作家を迎えて十数年ぶりに再結成された小劇団は、山あいの町をまわる公演旅行に出発する。しかし、役者たちの胸にくすぶる失われた家族、叶わぬ夢、愛しい人をめ…

 ゾフィア・ナウコフスカ『メダリオン』

「あなたにはお話します。私は生きたかったのです。どうしてかはわかりません。だって夫もなければ家族もなく、誰もいなかったのに、生きたかった。片目がなく、飢えて凍えていて 〜 そして、生きたかった。なぜかって? お話しましょう。あなたに今話してい…

 ロベルト・ボラーニョ『はるかな星』

白水社から刊行中の<ボラーニョ・コレクション>、前回の配本は、架空のアメリカ大陸のナチ文学者の人物事典『アメリカ大陸のナチ文学』でしたが、その最後に収められていたのは、空中に飛行機で詩を書くというパフォーマンスを行った人物を描いた「忌まわ…

 マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』

メキシコからの移民3世にあたる1974年生まれのアメリカ人作家による短篇集。 冒頭の「操縦士、副操縦士、作家」は、ダラス上空で、語り手である作家の乗る航空機がハイジャックされ、どうなるかと思いきや、飛行機はダラス上空をひたすら旋回し続け、そのま…

 スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』

スティーヴ・エリクソンが2012年に発表した最新作がちくまから文庫で登場。なぜ単行本ではなくて、いきなり文庫なのかはわかりませんが、2月には2007年に発表された『ゼロヴィル』も2月に出るようですし、同じく2月には『Xのアーチ』が集英社文庫になるよう…

 パオロ・バチガルピ『神の水』

近未来アメリカ、地球温暖化による慢性的な水不足が続くなか、巨大な環境完全都市に閉じこもる一部の富裕層が、命に直結する水供給をコントロールし、人々の生活をも支配していた。米西部では最後のライフラインとなったコロラド川の水利権をめぐって、ネバ…

 キルメン・ウリベ『ムシェ 小さな英雄の物語』

長編第一作の『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』が<エクス・リブリス>で日本にも紹介されたスペイン・バスクの作家キルメン・ウリベの長編第二作。同じく<エクス・リブリス>シリーズからの登場です。 Amazonのページに載っている紹介は以下のとおり。>>…

 レアード・ハント『優しい鬼』

置き去りにしてきたとおもったすべてのものが、、明日と呼べるんじゃないかといまだにおもっていたもののまんなかにテントを張って「こっちだぞぉ」とわめく、そんな日がいつか来る。 それで、わたしもここにいる。(160p) アメリカの田舎を背景にノコギリ…

 イーユン・リー『独りでいるより優しくて』

泊陽(ボーヤン)はこれまで、人は深い悲しみを知ると凡庸でなくなると思っていた。しかし火葬場の控え室はよそと変わらないところだった。(5p) これが北京大学卒業後にアメリカに渡り、英語で小説を書き続けているイーユン・リーの『独りでいるより優しく…

 ウィリアム・トレヴァー『恋と夏』

国書刊行会から刊行が始まった「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」の第1弾は、トレヴァー81歳の作にして最新長編。 見返しにある紹介文は以下のとおり。 20世紀半ば過ぎのアイルランドの田舎町ラスモイ、孤児の娘エリーは、事故で妻子を失った男の農場…

 スタニスワフ・レム『短篇ベスト10』

「国書刊行会の近刊予定に載り続けて何年になるんだ?」という「スタニスワフ・レム・コレクション」の1冊『短篇ベスト10』がついに刊行! もはや、待たされたという印象もないくらいになっていましたけど、さすがにレムの短編から選りすぐりの作品を集めた…

 甘耀明『神秘列車』

<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は前回の呉明益『歩道橋の魔術師』に引き続き台湾の作家の短篇集。 呉明益と同じ70年代前半生まれの作家で(呉明益は71年、この甘耀明(カンヤオミン)は72年生まれ)、同世代の作家と言っていいでしょう。 ただ、同じ…

 ロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』

タイトルだけを聞くと、何かノンフィクションか学術書のように感じますが、これが『野生の探偵たち』や『2666』などのボラーニョのはじめて刊行された小説。 ただ、これは普通の小説ではありません。架空の「アメリカ大陸のナチ文学」者の人物事典となってい…

 ジーン・ウルフ『ジーン・ウルフの記念日の本』

ジーン・ウルフの第二短篇集で原題は「Book Of Days」、アメリカの祝祭日や記念日をモチーフにそれに関係する短編が並んでいます。 第一短篇集と第三短篇集から編まれた日本版オリジナル短篇集『デス博士の島その他の物語』(これは傑作!)に比べると、一つ…

 呉明益『歩道橋の魔術師』

<エクス・リブリス>シリーズの新刊は1971年生まれの台湾の作家・呉明益の短篇集。 扉のページにガルシア=マルケスの引用があり、文体は少し村上春樹的。「ギラギラと太陽が照りつける道にゾウがいた」という作品では、実際、村上春樹の名前が出てきますし…

 カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』以来10年ぶりとなる新作は、奇妙で語りにくいけど、やはり面白くしっかりとした読後感を残す小説。 6世紀頃のイングランドを舞台に、ブリトン人のアクセルとベアトリスという老夫婦を主人公にして物語が始まるので…

 ケン・リュウ『紙の動物園』

表題作「紙の動物園」で、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の短編部門の三冠を成し遂げるなど、注目を集める新進のSF作家ケン・リュウの日本オリジナル第一短篇集。 作者のケン・リュウは1976年に中国に生まれ、11歳の時の渡米して、それ以来アメ…

 ミルチャ・カルタレスク『ぼくらが女性を愛する理由』

松籟社「東欧の想像力」シリーズの最新刊は、1956年生まれのルーマニアの作家の短篇集。ただ、短篇とはいえないような掌編、断片的な作品も混じっており、エッセイ的な面もあります。 カルタレスクは、チャウシェスク時代に青春時代を過ごし、チャウシェスク…