海外小説

 ジーン・ウルフ『書架の探偵』

『ケルベロス第五の首』、『デス博士の島その他の物語』、『ピース』など、毎度のように隙のない小説世界を構築してみせるジーン・ウルフですが、今作はジーン・ウルフが84歳の時に発表した作品ということもあり、ジーン・ウルフらしい遊び心に満ちつつも、…

 パク・ミンギュ『ピンポン』

「痛い」のにポップ。これは素晴らしい文体であり、小説だと思います。 著者のパク・ミンギュは『カステラ』という短編小説集で第1回の日本翻訳大賞を受賞しており、名前は知っていたのですが、読んだのはこの作品が初。いじめられている中学生男子が卓球に…

 ケン・リュウ『母の記憶に』

同じ「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」から出た日本版第一短篇集『紙の動物園』が面白かったケン・リュウの日本版第二短篇集。 『紙の動物園』では、イーガン的な「テクノロジーと心」の問題から、「良い狩りを」に見られるバチガルピ的なスチームパンクっぽい…

 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』

創元海外SF叢書の1冊。著者はもともとは建築やデザインに関するノンフィクションライターでこれが2作目の長編小説になります。 著者は日本では無名ですし、タイトルも人目を引くものではありませんが、「J・G・バラード+スティーヴン・キング」といった宣伝…

 ベン・ラーナー『10:04』

著者のベン・ラーナーは1979年生まれのアメリカの作家で、詩人としても知られています。小説デビュー作でポール・オースタージョナサン・フランゼンらに絶賛され、この『10:04』は2作目です。 タイトルは10時4分という時刻を表しており、この10時4分とは、『…

 ベン・ファウンテン『ビリー・リンの永遠の一日』

巨大スタジアムのステージで、兵士たちが行進し、ビヨンセが歌い踊り、花火が上がる―。甦る戦場の記憶と祖国アメリカの狂騒。19歳の兵士の視点で描かれる感動の大作。全米批評家協会賞受賞作。 これがこの小説の帯に書かれた紹介文。イラク戦争から一時帰還…

 ロベルト・ボラーニョ『ムッシュー・パン』

ボラーニョの最初期の中編『象の道』(1981〜82年頃に執筆され94年に刊行)を、1999年に改稿・改題されて刊行された小説で、ボラーニョがそのスタイルを確立する前に書かれた中編です。 96年に刊行された『第三帝国』と『はるかな星』になると、以降のボラー…

 オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』

1932年にオルダス・ハクスリーによって書かれたディストピア小説の新訳。同じディストピア小説の『一九八四年』が人々を抑圧する社会を描いたのに対して、この『すばらしい新世界』はむしろ人々の欲望が肯定されている世界を描いており、この2つのディストピ…

 チャイナ・ミエヴィル『爆発の三つの欠片』

短篇集なのに2段組570ページ超というボリューム。1つの本に28篇の短編というのはさすがに詰め込み過ぎだと感じましたが、原著がそうなので仕方がない。『ペルディード・ストリート・ステーション』の「やりすぎ感」が、ここでも発揮されたと理解すべきでしょ…

 シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』

エリザベス、エルスペス、ベッツィにベス みんなで出かけた鳥の巣探し。 見つけた巣には卵が五つ、 一つずつとって、残りは四つ。 これは、この小説の冒頭にエピグラフとして掲げられたなぞなぞ歌です。 エルスペス、ベッツィにベスというのはすべてエリザベ…

 ジム・シェパード『わかっていただけますかねえ』

アメリカの作家ジム・シェパードの短篇集。 収録作品は以下の通りになります。 ゼロメートル・ダイビングチーム シルル紀のプロト・スコーピオン ハドリアヌス帝の長城 死者を踏みつけろ、弱者を乗り越えろ 先祖から受け継いだもの(アーネンエルベ) リツヤ湾…

 ロベルト・ボラーニョ『第三帝国』

「詩」と「死」、「失踪」、「暴力」、「ナチス」。 これらはボラーニョの小説に繰り返し登場するモチーフですが、この『第三帝国』もそれは同じ。 タイトルの「第三帝国」はもちろんナチスドイツのことですが、この小説では第二次世界大戦をシミュレートし…

 サーバン『人形つくり』

国書刊行会から刊行が始まった<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの1冊で、先日紹介したL・P・デイヴィス『虚構の男』と同時発売された1冊です。 「リングストーンズ」と「人形つくり」という2つの中編を収録しています。 <ドーキー・アーカイヴ>自体がジャ…

 ハーラン・エリスン『死の鳥』

「世界の中心で愛を叫んだけもの」などで有名なハーラン・エリスンの日本オリジナルの短篇集。収録作品は以下の通りです。 「悔い改めよ、ハーレクィン! 」とチクタクマンはいった 竜討つものにまぼろしを おれには口がない、それでもおれは叫ぶ プリティ・…

 マキシーン・ホン・キングストン『チャイナ・メン』

藤本和子翻訳で『アメリカの中国人』というタイトルで刊行された「小説」が、新潮文庫の「村上柴田翻訳堂」シリーズで復刊。柴田元幸の推薦ということだそうです。 まず、最初に「小説」とカッコを付けたのは、この本はきれいにジャンルに収まらないものであ…

 エドゥアルド・ハルフォン『ポーランドのボクサー』

著者はグアテマラ生まれの作家。「グアテマラ生まれの作家の作品のタイトルがなぜ「ポーランドのボクサー」?」と思う人もいるかもしれませんが、それは著者の一家の複雑な生い立ちに理由があります。 著者のエドゥアルド・ハルフォンはユダヤ系で、母方の祖…

 L・P・デイヴィス『虚構の男』

国書刊行会から刊行が始まった<ドーキーアーカイブ>。若島正と横山茂雄という翻訳家でもあり稀代の読書家でもある二人が、「知られざる傑作」、「埋もれた異色作」をジャンルを問わず5冊ずつ選んだというシリーズになります。 その<ドーキーアーカイブ>…

 ナーダシュ・ペーテル『ある一族の物語の終わり』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの第13弾は、現代ハンガリーの作家ナーダシュ・ペーテルの初期の長編。ちなみにハンガリーは日本と同じ姓−名表記なので、ナーダシュが姓。名前のペーテルは、同じく<東欧の想像力>シリーズの『ハーン=ハーン伯爵夫人のまな…

 スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』

去年発売されたちくま文庫の『きみを夢見て』が音楽をテーマとした小説だったのに対して、こちらは映画をテーマにした小説。 頭に映画『陽のあたる場所』のモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラーの刺青をした、少しというかけっこういかれた男のヴィ…

 ウィリアム・トレヴァー『異国の出来事』

国書刊行会、<ウィリアム・トレヴァー・コレクション>の第二弾は、アイルランド以外の地を舞台にした小説を集めた日本独自編集の短篇集。以前、同じ国書刊行会から出た『アイルランド・ストーリーズ』がアイルランドを舞台にした作品を集めたものだったの…

 バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣』

服は人なり、という衣装哲学を具現したカエアン製の衣装は、敵対しているザイオード人らをも魅了し、高額で闇取引されていた。衣装を満載したカエアンの宇宙船が難破したという情報をつかんだザイオードの密貿易業者の一団は衣装奪取に向かう。しかし、彼ら…

 ドナル・ライアン『軋む心』

<エクス・リブリス>シリーズの最新刊はアイルランドの作家ドナル・ライアンのデビュー作。 ドナル・ライアンはもともとは労働問題を扱う弁護士として行政機関で働いていたそうですが、3年間休職してこの小説ともう一作を書き上げたそうです。ただし、出版…

 ダニエル・アラルコン『夜、僕らは輪になって歩く』

伝説の小劇団の公演旅行は、小さな噓をきっかけに思わぬ悲劇を生む――。内戦終結後、出所した劇作家を迎えて十数年ぶりに再結成された小劇団は、山あいの町をまわる公演旅行に出発する。しかし、役者たちの胸にくすぶる失われた家族、叶わぬ夢、愛しい人をめ…

 ゾフィア・ナウコフスカ『メダリオン』

「あなたにはお話します。私は生きたかったのです。どうしてかはわかりません。だって夫もなければ家族もなく、誰もいなかったのに、生きたかった。片目がなく、飢えて凍えていて 〜 そして、生きたかった。なぜかって? お話しましょう。あなたに今話してい…

 ロベルト・ボラーニョ『はるかな星』

白水社から刊行中の<ボラーニョ・コレクション>、前回の配本は、架空のアメリカ大陸のナチ文学者の人物事典『アメリカ大陸のナチ文学』でしたが、その最後に収められていたのは、空中に飛行機で詩を書くというパフォーマンスを行った人物を描いた「忌まわ…

 マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』

メキシコからの移民3世にあたる1974年生まれのアメリカ人作家による短篇集。 冒頭の「操縦士、副操縦士、作家」は、ダラス上空で、語り手である作家の乗る航空機がハイジャックされ、どうなるかと思いきや、飛行機はダラス上空をひたすら旋回し続け、そのま…

 スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』

スティーヴ・エリクソンが2012年に発表した最新作がちくまから文庫で登場。なぜ単行本ではなくて、いきなり文庫なのかはわかりませんが、2月には2007年に発表された『ゼロヴィル』も2月に出るようですし、同じく2月には『Xのアーチ』が集英社文庫になるよう…

 パオロ・バチガルピ『神の水』

近未来アメリカ、地球温暖化による慢性的な水不足が続くなか、巨大な環境完全都市に閉じこもる一部の富裕層が、命に直結する水供給をコントロールし、人々の生活をも支配していた。米西部では最後のライフラインとなったコロラド川の水利権をめぐって、ネバ…

 キルメン・ウリベ『ムシェ 小さな英雄の物語』

長編第一作の『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』が<エクス・リブリス>で日本にも紹介されたスペイン・バスクの作家キルメン・ウリベの長編第二作。同じく<エクス・リブリス>シリーズからの登場です。 Amazonのページに載っている紹介は以下のとおり。>>…

 レアード・ハント『優しい鬼』

置き去りにしてきたとおもったすべてのものが、、明日と呼べるんじゃないかといまだにおもっていたもののまんなかにテントを張って「こっちだぞぉ」とわめく、そんな日がいつか来る。 それで、わたしもここにいる。(160p) アメリカの田舎を背景にノコギリ…