海外小説

 ケン・リュウ『紙の動物園』

表題作「紙の動物園」で、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の短編部門の三冠を成し遂げるなど、注目を集める新進のSF作家ケン・リュウの日本オリジナル第一短篇集。 作者のケン・リュウは1976年に中国に生まれ、11歳の時の渡米して、それ以来アメ…

 ミルチャ・カルタレスク『ぼくらが女性を愛する理由』

松籟社「東欧の想像力」シリーズの最新刊は、1956年生まれのルーマニアの作家の短篇集。ただ、短篇とはいえないような掌編、断片的な作品も混じっており、エッセイ的な面もあります。 カルタレスクは、チャウシェスク時代に青春時代を過ごし、チャウシェスク…

 ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』

アメリカの女性推理作家ヘレン・マクロイの傑作選。もともとは晶文社の「晶文社ミステリ」の1冊だったものが、このたび創元推理文庫から出ました。主に1940年代後半から1960年代にかけての中短編が選ばれています。 「晶文社ミステリ」と聞いてピンときた人…

 ハリ・クンズル『民のいない神』

帯には「ピンチョンとデリーロの系譜に連なる、インド系イギリス作家による、「超越文学(トランスリット)」の登場!」との文句。 ピンチョン、デリーロという名前が出ると、「この世界のすべて」をぶち込んだような小説を期待してしまうわけですが、確かに…

 サミュエル・R・ディレイニー『ドリフトグラス』

国書刊行会<未来の文学>シリーズの最新刊は、サミュエル・R・ディレイニーの全中短編を網羅する決定版コレクション。 全中短編を網羅しただけあって、付録の年表なども含めれば580ページ近いボリューム、しかも二段組。引っ越しでバタバタしていたせいもあ…

 ダニヤール・ムイーヌッディーン『遠い部屋、遠い奇跡』

パキスタン人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれ、子ども時代はパキスタンで暮らし、アメリカで高等教育を受け、パキスタンの農場に戻り小説を執筆したという経歴を持つ著者の短篇集。 この短篇集に収録されている「甘やかされた男」はオー・ヘンリー賞を…

 コルム・トビーン『マリアが語り遺したこと』

母マリアによるもう一つのイエス伝。カナの婚礼で、ゴルゴタの丘で、マリアは何を見たか。「聖母」ではなく人の子の「母」としてのマリアを描くブッカー賞候補となった美しく果敢な独白小説。 本の帯の説明にはこのように書いてありますが、まさにこの通りの…

 エステルハージ・ペーテル『女がいる』

松籟社の「東欧の想像力」シリーズの『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』が素晴らしかった、エステルハージ・ペーテルの作品が<エクス・リブリス>シリーズで登場! というわけで非常に期待して読んだのですが、正直これはいまいちだった…。 ほぼすべて「…

 フィリップ・ロス『プロット・アゲインスト・アメリカ』

1940年のアメリカ大統領選挙でもしも反ユダヤ主義者のリンドバーグが大統領になっていたら…、という歴史改変小説なのですが、これが実に良く出来ている。 フィリップ・ロスは『さようならコロンバス』、『素晴らしいアメリカ野球』、『父の遺産』あたりを読…

 エリザベス・ボウエン『パリの家』

出会いは、実現しないと、本来の性格を保ち続ける。そして思い描かれたままの形で残る。(92p) 国書刊行会の「ボウエン・コレクション」でその存在を知ったエリザベス・ボウエンの代表作が新訳で登場。 訳者は「ボウエン・コレクション」と同じ太田良子。ボ…

 パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ: 二〇世紀史概説』

<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は、チェコの作家パトリク・オウジェドニークが、コラージュによって描く20世紀の歴史。 フラバルをはじめとしてチェコの作家の作品には面白いものが多いですし、20世紀に激変を経験した東欧の作家による20世紀の歴史と…

 ホセ・ドノソ『別荘』

『夜のみだらな鳥』と並ぶチリの作家、ホセ・ドノソの傑作がついに邦訳で登場。 やはり「すごい!」としか言いようのない小説で、これを読むとソローキンでさえもまだまだスケールが小さいと思えるほど。 イカれた話をイカれたテンションで書く作家、イカれ…

 レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』

東京創元社の<創元海外SF叢書>の第3弾は、1946年生まれのアメリカの作家レイ・ヴクサヴィッチの短篇集。原書はケリー・リンクの主催する出版社スモール・ビア・プレスから刊行されています。というわけで、この本も「SF!」というよりはSF的な設定の話も交…

 ポール・ユーン『かつて岸は』

白水社<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は韓国系アメリカ人作家の短篇集。ポール・ユーンは1980年生まれとかなり若い作家ですが、作風はかなり落ち着いていて、この短篇集でもある種の喪失を静かに描いていくような作品が多いです。 ただ、この本はたん…

 キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』

今年から刊行が始まった東京創元社の<創元海外SF叢書>の第2弾。第1弾はイアン・マクドナルドの上下巻だったのでパスしましたが、今回は短篇集なので、どんなものかと読んでみました。 まず、<SF叢書>と銘打っていますが、このキジ・ジョンスン『霧に橋を…

 ジョン・クロウリー『古代の遺物』

『エンジン・サマー』や『リトル・ビッグ』などの長編で知られるジョン・クロウリーの短篇集。『エンジン・サマー』は読んで、けっこう面白かった記憶があるのですが、同時にその謎を散りばめた書き方がやや読みづらくも感じました。 その点、短編は読みやす…

 遅子建『アルグン川の右岸』

アルグン川とは、中国の内モンゴル自治区とロシアの国境を流れる川のこと。アルグン川は、900km以上にわたりロシアと中国の国境を流れ、シルカ川と合流し、アムール川となります。 北東へと流れるアルグン川は、その右岸が中国領、左岸がロシア領です。 この…

 ボフミル・フラバル『剃髪式』

『あまりに騒がしい孤独』、池澤夏樹の世界文学全集に入っていた『わたしは英国王に給仕した』などで知られるチェコの作家ボフミル・フラバル。そのフラバルの作品を集めた松籟社「フラバル・コレクション」の第2弾がこの『剃髪式』になります。 1970年に出…

 ロベルト・ボラーニョ『鼻持ちならないガウチョ』

白水社から刊行の始まった「ボラーニョ・コレクション」の第2弾。『2666』とともに、ボラーニョの遺作となった短篇集になります。 収録作は、「ジム」、「鼻持ちならないガウチョ」、「鼠警察」、「アルバロ・ルーセロットの旅」、「二つのカトリック物語」…

 オルガ・トカルチュク『逃亡派』

オルガ・トカルチュクはポーランド出身の女性作家で、この<エクス・リブリス>シリーズには『昼の家、夜の家』につづき2回目の登場。 『昼の家、夜の家』は主人公の身辺雑記的な短い断片と、町の人々や歴史をめぐるエピソードなどを描いた短編によって構成…

 フラン・オブライエン『第三の警官』

アイルランドの小説家フラン・オブライエンの怪作。著者の死後の1967年に発表され、「20世紀小説の前衛的方法と、アイルランド的奇想が結びついた傑作」との評価を得た作品なのですが、実は書かれたのは1940年で、そのときは出版社に拒否されて公表を断念さ…

 ジーン・ウルフ『ピース』

『ケルベロス第五の首』や『デス博士の島その他の物語』、「新しい太陽の書」シリーズなどで知られるジーン・ウルフの初期長編。ウルフというとSFあるいはファンタジーの作家として知られていますが、この『ピース』はどのジャンルにもうまくはまらない不思…

 アレクサンダル・ヘモン『愛と障害』

白水社<エクス・リブリス>シリーズの新刊は、ボスニアのサラエヴォ出身で現在はアメリカにおいて英語で執筆活動を行っているアレクサンダル・ヘモンの短篇集。 「天国への階段」、「すべて」、「指揮者」、「すてきな暮らし」、「シムーラの部屋」、「蜂 …

 グレッグ・イーガン『白熱光』

ハードSFとして知られるイーガンですが、今作はとりわけハード。 こんなフレーズを前に出た短篇集『プランク・ダイブ』の時にも使った気がしますし、『ディアスポラ』も相当ハードだったわけですが、この『白熱光』はとりわけハード。しかも、ストーリーの仕…

 残雪『かつて描かれたことのない境地』

現代中国の女性作家・残雪(ツァン シュエ)の日本オリジナル短篇集。1988年に発表された「瓦の継ぎ目の雨だれ」から2009年に発表された「アメジストローズ」まで、20年近いキャリアの中から選ばれた短編が年代順に収めれられています。 以前から紹介されて…

 シュテン・ナルドにー『緩慢の発見』

「緩慢の発見」という奇妙なタイトルの付いた本ですが、中身は北極圏を探検した冒険家ジョン・フランクリンについての伝記的な小説になります。 ジョン・フランクリンは19世紀に活躍したイギリスの冒険家で、タスマニアの総督なども務めた人物ですが、何と言…

 ロベルト・ボラーニョ『売女の人殺し』

短篇集の『通話』、大長編の『野生の探偵たち』、『2666』と白水社からの刊行が続いていたチリ生まれの作家ロベルト・ボラーニョ。ついに「ボラーニョ・コレクション」としてその他の代表作もまとめて出るようです。 そんな「ボラーニョ・コレクション」の第…

 マイケル・オンダーチェ『名もなき人たちのテーブル』

映画にもなった『イギリス人の患者(映画タイトルは『イングリッシュ・ペイシェント』)、『ビリー・ザ・キッド全仕事』、『アニルの亡霊』、『ライオンの皮をまとって』、『ディビザデロ通り』などの作品で知られるスリランカ出身のカナダ人作家マイケル・…

 アレハンドロ・サンブラ『盆栽/木々の私生活』

盆栽の世話をすることはものを書くことに似ている、とフリオは考える。ものを書くことは盆栽の世話をすることに似ている、とフリオは考える。(82p) この本には、チリの作家でポスト・ボラーニョ世代の一人、アレハンドロ・サンブラの中編が2篇収められてい…

 クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』

「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の最新刊は、『魔法』、『奇術師』、『双生児』などの「語り」と「騙り」を駆使した作品で知られるクリストファー・プリーストの連作短編。<未来の文学>シリーズの『限りなき夏』を読んだ人には馴染みのある「ドリーム・アー…