海外小説
泊陽(ボーヤン)はこれまで、人は深い悲しみを知ると凡庸でなくなると思っていた。しかし火葬場の控え室はよそと変わらないところだった。(5p) これが北京大学卒業後にアメリカに渡り、英語で小説を書き続けているイーユン・リーの『独りでいるより優しく…
国書刊行会から刊行が始まった「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」の第1弾は、トレヴァー81歳の作にして最新長編。 見返しにある紹介文は以下のとおり。 20世紀半ば過ぎのアイルランドの田舎町ラスモイ、孤児の娘エリーは、事故で妻子を失った男の農場…
「国書刊行会の近刊予定に載り続けて何年になるんだ?」という「スタニスワフ・レム・コレクション」の1冊『短篇ベスト10』がついに刊行! もはや、待たされたという印象もないくらいになっていましたけど、さすがにレムの短編から選りすぐりの作品を集めた…
<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は前回の呉明益『歩道橋の魔術師』に引き続き台湾の作家の短篇集。 呉明益と同じ70年代前半生まれの作家で(呉明益は71年、この甘耀明(カンヤオミン)は72年生まれ)、同世代の作家と言っていいでしょう。 ただ、同じ…
タイトルだけを聞くと、何かノンフィクションか学術書のように感じますが、これが『野生の探偵たち』や『2666』などのボラーニョのはじめて刊行された小説。 ただ、これは普通の小説ではありません。架空の「アメリカ大陸のナチ文学」者の人物事典となってい…
ジーン・ウルフの第二短篇集で原題は「Book Of Days」、アメリカの祝祭日や記念日をモチーフにそれに関係する短編が並んでいます。 第一短篇集と第三短篇集から編まれた日本版オリジナル短篇集『デス博士の島その他の物語』(これは傑作!)に比べると、一つ…
<エクス・リブリス>シリーズの新刊は1971年生まれの台湾の作家・呉明益の短篇集。 扉のページにガルシア=マルケスの引用があり、文体は少し村上春樹的。「ギラギラと太陽が照りつける道にゾウがいた」という作品では、実際、村上春樹の名前が出てきますし…
カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』以来10年ぶりとなる新作は、奇妙で語りにくいけど、やはり面白くしっかりとした読後感を残す小説。 6世紀頃のイングランドを舞台に、ブリトン人のアクセルとベアトリスという老夫婦を主人公にして物語が始まるので…
表題作「紙の動物園」で、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の短編部門の三冠を成し遂げるなど、注目を集める新進のSF作家ケン・リュウの日本オリジナル第一短篇集。 作者のケン・リュウは1976年に中国に生まれ、11歳の時の渡米して、それ以来アメ…
松籟社「東欧の想像力」シリーズの最新刊は、1956年生まれのルーマニアの作家の短篇集。ただ、短篇とはいえないような掌編、断片的な作品も混じっており、エッセイ的な面もあります。 カルタレスクは、チャウシェスク時代に青春時代を過ごし、チャウシェスク…
アメリカの女性推理作家ヘレン・マクロイの傑作選。もともとは晶文社の「晶文社ミステリ」の1冊だったものが、このたび創元推理文庫から出ました。主に1940年代後半から1960年代にかけての中短編が選ばれています。 「晶文社ミステリ」と聞いてピンときた人…
帯には「ピンチョンとデリーロの系譜に連なる、インド系イギリス作家による、「超越文学(トランスリット)」の登場!」との文句。 ピンチョン、デリーロという名前が出ると、「この世界のすべて」をぶち込んだような小説を期待してしまうわけですが、確かに…
国書刊行会<未来の文学>シリーズの最新刊は、サミュエル・R・ディレイニーの全中短編を網羅する決定版コレクション。 全中短編を網羅しただけあって、付録の年表なども含めれば580ページ近いボリューム、しかも二段組。引っ越しでバタバタしていたせいもあ…
パキスタン人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれ、子ども時代はパキスタンで暮らし、アメリカで高等教育を受け、パキスタンの農場に戻り小説を執筆したという経歴を持つ著者の短篇集。 この短篇集に収録されている「甘やかされた男」はオー・ヘンリー賞を…
母マリアによるもう一つのイエス伝。カナの婚礼で、ゴルゴタの丘で、マリアは何を見たか。「聖母」ではなく人の子の「母」としてのマリアを描くブッカー賞候補となった美しく果敢な独白小説。 本の帯の説明にはこのように書いてありますが、まさにこの通りの…
松籟社の「東欧の想像力」シリーズの『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』が素晴らしかった、エステルハージ・ペーテルの作品が<エクス・リブリス>シリーズで登場! というわけで非常に期待して読んだのですが、正直これはいまいちだった…。 ほぼすべて「…
1940年のアメリカ大統領選挙でもしも反ユダヤ主義者のリンドバーグが大統領になっていたら…、という歴史改変小説なのですが、これが実に良く出来ている。 フィリップ・ロスは『さようならコロンバス』、『素晴らしいアメリカ野球』、『父の遺産』あたりを読…
出会いは、実現しないと、本来の性格を保ち続ける。そして思い描かれたままの形で残る。(92p) 国書刊行会の「ボウエン・コレクション」でその存在を知ったエリザベス・ボウエンの代表作が新訳で登場。 訳者は「ボウエン・コレクション」と同じ太田良子。ボ…
<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は、チェコの作家パトリク・オウジェドニークが、コラージュによって描く20世紀の歴史。 フラバルをはじめとしてチェコの作家の作品には面白いものが多いですし、20世紀に激変を経験した東欧の作家による20世紀の歴史と…
『夜のみだらな鳥』と並ぶチリの作家、ホセ・ドノソの傑作がついに邦訳で登場。 やはり「すごい!」としか言いようのない小説で、これを読むとソローキンでさえもまだまだスケールが小さいと思えるほど。 イカれた話をイカれたテンションで書く作家、イカれ…
東京創元社の<創元海外SF叢書>の第3弾は、1946年生まれのアメリカの作家レイ・ヴクサヴィッチの短篇集。原書はケリー・リンクの主催する出版社スモール・ビア・プレスから刊行されています。というわけで、この本も「SF!」というよりはSF的な設定の話も交…
白水社<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は韓国系アメリカ人作家の短篇集。ポール・ユーンは1980年生まれとかなり若い作家ですが、作風はかなり落ち着いていて、この短篇集でもある種の喪失を静かに描いていくような作品が多いです。 ただ、この本はたん…
今年から刊行が始まった東京創元社の<創元海外SF叢書>の第2弾。第1弾はイアン・マクドナルドの上下巻だったのでパスしましたが、今回は短篇集なので、どんなものかと読んでみました。 まず、<SF叢書>と銘打っていますが、このキジ・ジョンスン『霧に橋を…
『エンジン・サマー』や『リトル・ビッグ』などの長編で知られるジョン・クロウリーの短篇集。『エンジン・サマー』は読んで、けっこう面白かった記憶があるのですが、同時にその謎を散りばめた書き方がやや読みづらくも感じました。 その点、短編は読みやす…
アルグン川とは、中国の内モンゴル自治区とロシアの国境を流れる川のこと。アルグン川は、900km以上にわたりロシアと中国の国境を流れ、シルカ川と合流し、アムール川となります。 北東へと流れるアルグン川は、その右岸が中国領、左岸がロシア領です。 この…
『あまりに騒がしい孤独』、池澤夏樹の世界文学全集に入っていた『わたしは英国王に給仕した』などで知られるチェコの作家ボフミル・フラバル。そのフラバルの作品を集めた松籟社「フラバル・コレクション」の第2弾がこの『剃髪式』になります。 1970年に出…
白水社から刊行の始まった「ボラーニョ・コレクション」の第2弾。『2666』とともに、ボラーニョの遺作となった短篇集になります。 収録作は、「ジム」、「鼻持ちならないガウチョ」、「鼠警察」、「アルバロ・ルーセロットの旅」、「二つのカトリック物語」…
オルガ・トカルチュクはポーランド出身の女性作家で、この<エクス・リブリス>シリーズには『昼の家、夜の家』につづき2回目の登場。 『昼の家、夜の家』は主人公の身辺雑記的な短い断片と、町の人々や歴史をめぐるエピソードなどを描いた短編によって構成…
アイルランドの小説家フラン・オブライエンの怪作。著者の死後の1967年に発表され、「20世紀小説の前衛的方法と、アイルランド的奇想が結びついた傑作」との評価を得た作品なのですが、実は書かれたのは1940年で、そのときは出版社に拒否されて公表を断念さ…
『ケルベロス第五の首』や『デス博士の島その他の物語』、「新しい太陽の書」シリーズなどで知られるジーン・ウルフの初期長編。ウルフというとSFあるいはファンタジーの作家として知られていますが、この『ピース』はどのジャンルにもうまくはまらない不思…