ミッシェル・ガン・エレファント ”世界の終わり”とその先の風景

 10月11日、行ってきました、ミッシェル・ガン・エレファントの解散ライブ。当日のことは日記にも書きましたが、とにかくあのライブのあとは、しばらくロックに対する感受性が抜け落ちてましたね。ラストの曲の“世界の終わり”とともに、何かが抜けた感じ。ミッシェルの曲も“エレクトリック・サーカス”以外はほとんど聴けず、ようやく最近聴けるようになりました。というわけで、今月はミッシェル、特にそのチバの歌詞について。


 “世界の終わり”でメジャーデビューを果たしたミッシェルは、そのデビューシングルで予感させた「世界の終わり」、そして「世界が終わったあとの風景」を後期の作品で見せてくれたと思います。


 1st「カルト・グラス・スターズ」、2nd「ハイ・タイム」、3rd「チキン・ゾンビーズ」のころの初期のミッシェルは、言葉遊び的な歌詞に「過去や自意識を忘れてしまえ」的なメッセージを織り込むような歌詞を歌っていました。例えば、“いじけるなベイビー”の「上の空でダンスを踊れ/でっち上げでダンスを踊れ」とか“リリィ”の「こめかみ指でこじ開けてから/意識トバして帰るよ リリィ」とか“brand new stone”の「首から上切り離して/足で沈めて忘れたい」などあげればキリがありません。そして、適当なようでいて、その歌詞は独特の言葉まわしによるかなり技巧的なもので、“バードメン”の「さっきまでが頭の中で跳ねた/暗闇は見えないままでがなる/踊るロマンのチミドロで/軽くなるだけあとはトぶだけ」の部分なんかは、ほんと素晴らしすぎる歌詞だと思います。ちなみにこの3枚だと、派手さはないものの「ハイ・タイム」がもっとも出来のいいアルバムでしょう。


 4thの「ギヤ・ブルーズ」になると、チバの歌詞は、単に「忘れろ」とかいうのではなくなり、曲自体も言葉の意味ごと吹き飛ばすようなものになっていきます。1曲目“ウェスト・キャバレー・ドライブ”は「泥沼に生えてる俺の足/乾いた砂にはならないんだろ」と歌い出し、“フリー・デビル・ジャム”では「あわてふためいてやれ魂だとか/抜かれる余裕はどこにもねえ/踊り続けるだけ」と歌い、“G・W・D”では「のさばりすぎた喜びは/ずいぶん前に捨てたから」と歌って、「がなる われる だれる 風が/がなる われる だれる 聞こえる」と叫びます。曲にも他のバンドにはないような強度が備わり、まさにミッシェルの転機となったアルバムと言えるでしょう。「世界の終わりが砕け散る」と歌った“ジェニー”もこの時期の作品です。


 つづく「カサノバ・スネイク」は前作に比べるとやや小粒な感じがするアルバムですが、「ぶらぶらと/夜になる/ぶらぶらと/夜をゆく/なめつくした/ドロップの気持ち」と歌う、“ドロップ”は最高ですし、“裸の太陽”の「裸の太陽を 追いかけてきたけど/ここから先はもう 西は終わりになる」という歌詞に見られるように、ミッシェルが「世界の果て」に辿り着いたアルバムという感じがします。


 そして6thの「ロデオ・タンデム・ビート・スペクター」。個人的に一番好きなアルバムです。ここでミッシェルは「世界が終わったあとの風景」を見せてくれたと思います。「バイバイベイビー バイバイブルーズ」とチバが叫ぶ“シトロエンの孤独”に始まり、「年老いたブルーバード/雪の降るコンクリートモノクロームの大地/パーティは終わりにしたんだ」と歌う“暴かれた世界”、「宇宙はどこにもありはしないぜ/骨になってもハートはのこるぜ」と叫ぶ“ターキー”。他にも印象的な部分はたくさんあるのですが、とにかくこのアルバムの歌詞には「人間」が登場しません。歌詞の中に一応人間はいますが、そのすべてが「亡霊」(スペクター)のような印象を受けるのです。“暴かれた世界”や“ベイビー・スターダスト”のような激しい曲も多いものの、全体の印象はあくまでも冷たく、そこに描かれるのは「人間」がいなくなったあとに「亡霊」によって認識される世界です。そしてこのアルバムのラストを飾るのが“赤毛のケリー”。この曲で歌われるのはまさに「世界が終わったあとの風景」だと思います。
 「太陽と道が溶け合う場所の/先に広がるのは 凍りついた海/あの娘描くのは 底に住む魚/タツノオトシゴ アザラシの悲鳴」


 最後の作品となった「サブリナ・ヘブン」と「サブリナ・ノー・ヘブン」は、“ブラック・ラブ・ホール”、“太陽をつかんでしまった”、“ジプシー・サンディー”、“サンダーバードヒルズ”、“水色の水”など曲の面でも詞の面でも突き抜けたかっこよさの曲もあるのですが、“ヴェルヴェット”、メタリック“など詞の面でやや弛緩した曲もあるのが残念。”GIRL FRIEND“なんかも悪くないけど、やや感傷的すぎる気がします。それでも「どっかに本当に果てというものがあるなら/一度くらいは行ってみたいと思う」(ジプシー・サンディー)とあるけど、ミッシェルには「世界の果て」そしてその先に連れていってもらったと思う。


Rodeo Tandem Beat Specter
ミッシェル・ガン・エレファント
B001PM0CH8