『マトリックス』、ラディカルな『リローデッド』と尻すぼみの『レヴォリューションズ』

 『マトリックスレヴォリューションズ』を見てきたのですが、前作『リローデッド』で提示された世界観のさらなる展開を期待した身としては、やや期待はずれ。少し不満の残る3作目でした。


 第1作目の『マトリックス』では、ラカン的な観点から言うと、マトリックスの世界=「想像界」、ネオが見るプログラムの世界=「象徴界」、荒涼とした現実=「現実界」、というのが一般的?な見方でして、マトリックスはあくまでもイメージの世界で、それを秩序を作り上げているのがプログラムの世界(ラカンの現実認識で言うと言語の世界)、そして機械に支配されている世界が一般的には表象不可能な領域、ということになります。ネオはマトリックスのプログラムを知ることが出来たので何でも出来るわけですし、また、機械に支配されている世界は“いかにも”というよなやや陳腐な描かれ方なのですが、これは「現実界」が表象不可能な領域だということを考えると、仕方のないことなのでしょう。


 ところが、この見方は『リローデッド』で変更を迫られます。つまりザイオンを含めた荒涼とした現実もプログラムされた世界(「想像界」)にすぎなかった、というわけです。これは最後にネオが襲ってくるセンティアルを破壊するシーンではっきりすると思います。手をかざして破壊できるということは、プログラムされた見かけのものという点でマトリックスのものと同じということでしょう。(ラカン的に言えば、前半のザイオンのシーンで陳腐なラブロマンスが繰り広げられることで、ザイオンが「想像的」であることを感じてしまいます。ラブロマンスこそ「想像的」なものですから)


 後半の設計者(アーキテクト)との会話を聞くと、マトリックスというのは思っていた以上に大きなシステムで、本当にすべてを包摂するプログラムだということが明らかにされます。まずマトリックスには、普通の人間のプログラムだけでなく、特殊なプログラムが存在します。それはメロビンジアンであったり、オラクル(預言者)であったり、キーメーカーであったりです。これらはプログラムでありながらマトリックスの世界を管理し、その一部を書き換えること出来る特殊なプログラムです。そして、ザイオンに逃れた人間というのはマトリックスを不安定にさせるバグのようなもので、そのバグを処理するために預言者を使ってザイオンに行かせる、つまりウィンドウズで言うとザイオンとは“ゴミ箱”のようなものなのでしょう。


 そうした中で、ネオとエージェント・スミスというのはそのプログラムの中のウィルスみたいなものなのでしょう(『攻殻機動隊』のネットの中から生まれた「人形使い」のようなものかな)。特にスミスが次々とマトリックスの人間を自分に書き換えていく姿は、増殖するウィルスそのものです。そして今回の『レヴォリューションズ』では、ネオとスミスはマトリックスのプログラムだけでなく、今まで現実世界と思われていた世界のプログラム(これが“ソース”なんだと思う)にまで干渉できるようになります。だからネオはセンティアルを破壊し、スミスは「現実」の人間に乗り移ることができるのでしょう。


 マトリックスがアプリケーションソフトだとすれば、その基底にさらに基本的なプログラムのOSの部分があり、それがソースなのでしょう。『レヴォリューションズ』のオープニングで緑色のプログラム部分のさらに奥に金色のプログラム?のようなものが描かれるシーンがありますが、それがその関係を表しているのだと思います。『レヴォリューションズ』ではスミスが、このソースの世界にまで増殖することになり、ネオはそれに対抗するためのワクチンとしてスミスとの最後の戦いに挑み、スミスに書き換えられようとした瞬間に逆にスミスのプログラムを無効化した、というのが結末なのだと思います。


 話の流れとしてはこの展開に文句はないのですが、『レヴォリューションズ』の話の構成には多くの不満があります。その一番は、何と言ってもザイオンのシーンが長すぎることです。確かに機械の大軍が襲ってくるシーンにも、それなりの面白さはありますが、所詮、真に重要な戦いとは言えないものですし、もともと不可能な「現実界」をあえて映像化した機械の世界と地続きのザイオンというのは、全体として陳腐なものです。さらにザイオンの位置づけというのが最終的にぼかされているのもよくないと思います。預言もモーフィアスの努力も結局はプログラムの流れの中のものであり、ほとんど重要性を持たないという『リローデッド』でのラディカルな展開は、いつの間にかあいまいになってしまっています。雨の中でのスミスとの対決のシーンなどは好きなのですが、『レヴォリューションズ』は最後の最後でハッピーエンドへと引きずられてしまったような気がします。


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