舞城王太郎『熊の場所』読了

 舞城王太郎の『熊の場所』を読み終わる。この本には「熊の場所」、「バット男」、「ピコーン!」という3つの短編が収められていて、どれもなかなかの出来。特に「熊の場所」は文体的にもかなり文学的(純文学的というより南米の作家とかT・R・ピアソンとか思い出す感じ)。「群像」に発表されただけのことはある。猫殺しをする小学生をめぐる話で、子どもの中の”エロスと暴力の近さ”のようなものをえぐり出す描写やストーリー展開もすごくよくできてる。あと、舞城王太郎はけっこう乱暴に作品を書いているように見えながら、この「熊の場所」でも、「回帰するトラウマ」というフロイトラカンの考えをもろに取り込んでいて、かなり現代思想とか批評とかにも精通しているんじゃないかな、と思う(このあたりはよく一緒に取り上げられる佐藤友哉とは対照的で、佐藤友哉はさまざまな引用をしつつも思想的なものや構造的なものはほとんど引用されてない。もっともそれでいいんですけどね)。
 「バット男」なんかも虐待などの現代的な風俗を題材に取りながら、「心の闇」とかをねつ造しない展開が秀逸。この「バット男」も「ピコーン!」も、暴力や事件を書き連ねていながら、読み終わったあとに何か人生に対する認識のようなものを感じさせるっていうところとかに、舞城王太郎の魅力があると思う。舞城王太郎を最初に読む人にも、この本はいいんじゃないでしょうか。
 舞城王太郎『熊の場所』


晩ご飯はステーキとトマト