村上春樹『海辺のカフカ』読了

 村上春樹海辺のカフカ』を読了。主人公が15歳の少年になったということで、今までの村上春樹作品とはがらっと変わったものになると思いきや、基本的に『ねじまき鳥クロニクル』の世界を受け継いだ作品だと思う。若くなった分、主人公の気取りは減ったとはいえ,15歳にしては気取り過ぎ。
 でも、この作品の魅力は主人公の15歳の少年の話より、それと平行して進むナカタさんの話のほう。ナカタさんを助けるホシノちゃんという青年が今までの村上春樹の小説にはいないタイプの人物で、それもいいんだけど、なんといっても戦時中ナカタさんが記憶を失うところでの担任の先生の性的な描写や、ナカタさんがジョニーウォーカーを殺すときの息詰まる暴力の描写などはほんとうまい。日常生活の皮膚1枚下に隠されている性的衝動や暴力の影、そういったもの描くことに関しては、村上春樹は抜けてうまい。『ねじまき鳥』の「皮剥ぎボリス」なんかもそうだけど、暴力を描く作家があふれている中でも、村上春樹の暴力の描き方は相当高いレベルにあると思う。
 欲を言えば、『ねじまき鳥』のときの綿谷ノボルの描き方にも感じたけど、「悪そのもの」が今回も漠然としか描かれていない点。このテーマに関してはもう1度チャレンジすることもあるのかな?
海辺のカフカ (上)
村上 春樹
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