西尾維新『きみとぼくの壊れた世界』読了

 西尾維新きみとぼくの壊れた世界』を読了。カバーに「本格ミステリー」と書いてある割には、トリック自体はたいしたことないし、事件の詳しい内容はよくわからないし、登場人物が少なすぎて犯人の見当がすぐついてしまったりと、「本格ミステリー」を期待すると裏切られる。また、あいかわらずキャラの設定は濃いんで、女性キャラの話し方とかにうんざりする人もいるかもしれません。
 でも、この小説はおもしろい。そして踏み込んだ小説です。主人公は妹を守るためにすべてを捧げるような人間で、このへんは佐藤友哉の小説の登場人物っぽい。小説の始まりは「妹を悪意ある世界から守る」というトーンで、これまた佐藤友哉っぽいんだけど、佐藤友哉の作品では最後まで続くそのトーンが、この『きみとぼくの壊れた世界』では徐々に変わっていく。主人公の「妹/それ以外の物や人」という世界認識の図式が、ストーリーが進むにつれだんだん維持できなくなってくるのです。
 いわゆる「他者」の存在というものが主人公の中に入り込んできます。そして、病院坂という主人公が好きになりかけている「他者」から次のような言葉を突きつけられます。

 きみは、あらゆることに自分を勘定に入れなかった。きみ自身の幸福には興味がないといわんばかりに、世界を相手に取り組みすぎた。この世界が試験問題だったとするなら〜きみは、自分の名前を書き忘れたのだよ。きみは、妹さんのため、迎槻くんのため、琴原さんのために〜と、色んな嘘をついた。自分の世界のほとんどに対し、きみの世界のほとんどに対し、嘘をついた。世界を騙した。それは、もう、世界を壊してしまわんばかりに。調和をもたらすために、欺瞞を持ち込んだのさ。きみのいうことは嘘ばっかりだ。だから〜きみは、最悪なんだ。

 佐藤友哉の小説も最終的にはこんな境地にたどり着くんですけど、それが主人公の独白で語られるのではなく、「他者」によって突きつけられるというところが、西尾維新ならではなのかな。

きみとぼくの壊れた世界
西尾 維新
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