稲葉振一郎『経済学という教養』読了

 稲葉振一郎『経済学という教養』を読了。ブックオフでたまたま見つけて買ったんだけど(しかも105円)、これは結構面白い。同じ著者の『「資本」論』よりも整理されているし、何よりも読み物として読みやすいです。
 「読み物」と書きましたが、この本が面白いのは経済学についてわかりやすく解説してあるということもあるのですが、それ以上に最近の日本の不況のとその対策についての言説を経済学の流れの中で時事的に整理している点です。「時事的に整理」というと、「論戦もの」を思い浮かべるかもしれませんが、そうではなくて左翼の退潮、ポストモダン的状況といった思想の流れの中に位置づけられており、一種、「左翼の精神史」というべき著述がされています。
 経済学をある程度知っている者からすると、疑問符だらけの金子勝の考えなんかも、この本を読むと少しは彼の「はまった罠」というのがわかります。
 付け足しするとすれば、この本で著者は「構造改革主義者」のモラリスティックな側面を「シバキ主義」として批判していますが、やっぱりこの「道徳」という怪物をどうするかということが政府の経済運営、そしてこれからの政治を語る上で一番のポイントだと思います。景気回復の策として最も有効でリスクも少ないと思われるリフレが、多くの人の政策提言にもかかわらず実行されなかったのは、リフレが道徳的なものではないからですよね。インフレになっても悪者は退治できないですから(失業とかを悪と考えればいいんだろうけど、道徳は基本的に人格しか問題にしないから)。ニュースやワイドショーでVTRのあとに一言コメントをいうのが「批評的」みたいな風潮がなくならない限り、政治や経済の問題は常に「道徳」の問題として語られ続けていくんでしょう。一言で言えることなんて道徳的な判断くらいですからね。

経済学という教養
稲葉 振一郎
4492394230


晩ご飯は寄せ鍋