デイヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪』読了

 とりあえず、「魁皇残ったー!」って感じの今日の夕方でしたが、栃東といい今日の白鳳といい、魁皇の悲愴な顔に押された感じ。でも、千代大海はともかくとして魁皇には残ってほしかったんでよかった。
 デイヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪』を読了。原題は「Let them eat Prozac」(「プロザックを食べたらいいじゃない」)という、マリー・アントワネットの歴史的名言(?)をもじったもので、プロザックをはじめとするSSRI(選択的セロトニン阻害薬)と呼ばれる新しい抗うつ薬に潜む自殺衝動を強めるというリスクを告発した本。
 プロザックをはじめとするSSRIの諸薬がプラセボ(偽薬)を飲んだ場合より、場合によっては約2倍程度自殺のリスクを高めるという告発や、最近は世間にも流通している「セロトニンの減少→うつ」という理論が精神医学の分野では確かなものとは言えない、というSSRIそのものに関わる話題ももちろん衝撃的ですが、それ以外にも製薬業界をめぐる驚きの事実が数多く明らかにされています。
 例えば、一昔前の」躁鬱病とは異なる現在のうつ病は、1990年代の抗うつ薬の登場とともに爆発的に増え、100万人に50か100人だった患者数が100万に10万人と1000倍近く増えたこと。そしてこの背景にはプロザックを販売しているイーライリリー社がs金援助を行ったキャンペーンがあること。
 さらに、現在の精神薬理学ではコミュニケーション代理店と呼ばれる製薬会社と密接な関係を持つ企業が、研究者の論文の代作を行っており、「精神薬理学分野の「科学的」文献のヤク50パーセントが代作されたり、企業の中で生まれたり、査読を必要としない専門誌別冊に掲載されたりしたものであった」(163p)というような状況であること。そしてこの結果、生のデータを持っているのは製薬企業のみであり、その製薬企業が副作用のデータなどを隠していること。
 こういった衝撃的な事実が書かれているのがこの本です。著者の告発的な調子からは、この内容が多少は割り引いて読まれなくてはならないものだという気もしますが、それでも衝撃的な本であることに代わりはありません。
 また、著者がSSRIをめぐる訴訟に関わったことから、そういった訴訟についての記述も多く、訴訟に関する読み物としての面白さもあります。
 プロザック自体は、一回NHKスペシャルで性格改造薬として紹介されたものの、日本には個人輸入の形以外では入ってきませんでしたが、それ以外のSSRIはうつの治療に使われており、また日本でもうつ病のキャンペーンがTVCMなどで流れています。日本でも抗うつ薬がますます氾濫してきそうな中で、読まれるべき本でしょう。

抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟
デイヴィッド ヒーリー David Healy 谷垣 暁美
4622071495


晩ご飯は肉がハンバーグのビーフシチュー