『マンダレイ』

 今日は土曜でJリーグ中継も見たかったりしたけど、映画の日ということで、日比谷まで『マンダレイ』を見に行ってきた。
 『マンダレイ』はラース・フォン・トリアー監督で『ドッグヴィル』の続編。あの地面に絵や文字が書いてあるセットとかはあのままだし、ストーリー的にもあの話の続き。「あの話に続きがあるのか?」というのは前作を見たものとして正直な感想なんだけど、映画の方も前作を踏まえて少し変化している。
 一番の変化は主人公のグレースが前回のラストで「キリスト的立場」から降りてしまった結果として、『奇跡の海』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』といったトリアー監督作品に共通する「キリスト的なヒロイン」ではなく、もう少しふつうの社会改良家として描かれているということ(もちろんグレースがニコール・キッドマンからブライス・ダラス・ハワードに変わったということが一番の変化かもしれませんが)。
 この映画でのグレースは今までの理不尽な受難に耐える崇高なヒロインといったものではなく、ずいぶんと普通の主体的な人間で、愚かです。で、そのグレースが奴隷制の続いている農園「マンダレイ」に乗り込んで黒人たちを解放しようとするが、うまくいかず…、といったストーリー。比較的分かりやすい話ではあるんですが、やっぱりトリアーならではの悪意が満開。白人が見ても黒人が見ても不愉快になる話でしょう。そしてラストも悪意たっぷり。さらにエンドロールでは締めの「アメリカには黒人を受け入れる準備がなかったのだろうか?/アメリカ社会は控えめながら黒人に手を差し伸べた」ってナレーションに続いて、KKKの写真と前作に続いてデヴィット・ボウイの”ヤング・アメリカン”。もう、「キター!」としか言いようがないです。そのうちトリアーはアメリカに入国禁止になるんじゃないでしょうか?
 ブッシュ批判ともアメリカ批判ともグローバリゼーション批判ともとれる映画ですけど、そういったレベルを突き抜けてヒューマニズム批判とか人間批判とか言えるほど。ただ、ある種の「皮肉」のレベルに収まっている感じで、『ドッグヴィル』にあったような衝撃にはちょっとかけますね。あと、グレース役のブライス・ダラス・ハワードはけっこうかわいらしいですけど、ニコール・キッドマンが見せた崇高とも言える美しさに比べるとやっぱりちょっと落ちます。