ヒラリー・パトナム『事実/価値二分法の崩壊』読了

 アメリカを代表する哲学者の一人であるヒラリー・パトナムが、タイトルの通りに、ヒューム以来根強い「事実/価値二分法」を批判した本。
 もともとパトナムは分析哲学者の中でも比較的わかりやすい議論をしますし、この本の第1部は講義をもとにしたものなので、この手の本としては読みやすいと思います。

 この本でパトナムは、まずクワインによる「分析的/総合的」の二分法批判を手がかりに、物事を分析的真理か観察的事実にきれいにわけることはできないのと同じように、事実と価値もきれいにわけることができないということを主張します。
 例えば、「残酷な」というような言葉は、事実と価値が入り混じった言葉であり、どちらかの要素だけを取り出すことはできないというのです。
 ここから、パトナムは、「残酷な」といった言葉が倫理的価値を含意することを指摘し、事実から倫理的価値を完全に追放するものも間違いだと述べます。
 そして、この倫理的価値を追放してきた経済学の過ちを言い、もともと道徳学者でもあった経済学の始祖アダム・スミスの考え、そして現代の経済学において倫理を復活させようとしているアマルティア・センの考えを取り上げ、その考えに賛意を示しています。

 と、いった部分が第1部。上にも書いたようにこの部分は講義をもとにしたものであり、わかりやすく説得力もあるものだと主おいます。
 第2部はもうちょっと専門的論文で、ローティーやハーバーマスをとりあげてその考えを批判的に検討しているわけですが、「なるほど」と思う面と、「そこまで言えるか?」というような部分が両方あります。
 特に「選好」の推移律についての疑問を書いた第5勝の「選好の合理性について」は、やや説得力がないような気がします。

事実/価値二分法の崩壊
ヒラリー パトナム Hilary Putnam 藤田 晋吾
4588008471


晩ご飯は豚肉とピーマンとタマネギの味噌炒め