シオドア・スタージョン『輝く断片』読了

 シオドア・スタージョンの『輝く断片』を読了。さすがに『海を失った男』のようにほぼ全編が異様な緊迫感と世界を生み出しているというのではなくて、前半の短編は、まあ「面白いアイディアの短編」といった感じだけど,後半の四編、「ニュースの時間です」、「マエストロを殺せ」、「ルウェリンの犯罪」、「輝く断片」は素晴らしい出来。
 「ニュースの時間」は元ネタをロバート・A・ハインラインが提供しているらしく、純粋にスタージョンの作品とはいいがたいみたいだけど、ニュースを見ることに異常に執着する男の理由と、その結末のもって行き方が見事。
 「マエストロを殺せ」は天才芸術家とその側にいる男に芽生える殺意ということで、ありがちな設定ではあるんだけど、単に天才芸術家の殺害で終わらないのがスタージョンの想像力。ただ、邦題はむかしの「死ね,名演奏家、死ね」のほうが圧倒的に正しい。
 「ルウェリンの犯罪」は、設定とはなしの展開はブラックコメディなんだけど、そこに単なる笑いではなく、惨めな主人公の切なさを見るのはスタージョンのある種ヒューマニストなところ。
 「輝く断片」は冒頭のものすごい緊迫感と、そして「ルウェリンの犯罪」にも通じる日陰者の切なさを描ききった力強い作品。いきなり素人の手術シーンの描写から始まるので,その手のものが苦手な人には読むのが大変かもしれませんが(僕も苦手)、その重い展開に引き込まれる作品です。

輝く断片
シオドア・スタージョン 大森 望
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