ハーヴェイ・ジェイコブズ他『グラックの卵』読了

 国書刊行会未来の文学>シリーズ第2期の3冊目は浅倉久志の編んだユーモアSFのアンソロジー。50年代、60年代の奇想天外なユーモアSFを集めたもので、ジーン・ウルフとかトマス・ディッシュみたいな文学的な洗練とかレベルの高さみたいなものはないかもしれないけど、アイディア的にはまさにSFならではの想像力が遺憾なく発揮されてる。
 収録作品はネルスン・ボンド「見よ、かの巨鳥を!」、ヘンリー・カットナー「ギャラハー・プラス」、シオドア・コグスウェル「スーパーマンはつらい」、ウィリアム・テン「モーニエル・マサウェイの発見」、ウィル・スタントン「ガムドロップ・キング」、ロン・グーラート「ただいま追跡中」、ジョン・スラデック「マスタースンと社員たち」、ジョン・ノヴォトニイ「バーボン湖」、ハーヴェイ・ジェイコブズ「グラックの卵」。
 この中でも特に読み物として面白いのがスーパーマンたちの悩みとその行く末を描いた「スーパーマンはつらい」と、他でも使われてそうなタイムパラドックスのアイディアを使っているけどとにかく面白く読める「モーニエル・マサウェイの発見」。
 そして、なんといってもこのアンソロジーの目玉はジョン・スラデック「マスタースンと社員たち」でしょう。
訳の分からない事務仕事をしつづける社員たちを描いたこの作品は、いわゆるカフカ的とも言える不条理な作品で『審判』とかを思い起こさせるけど、もっと似てるのはジョーゼフ・ヘラーの『キャッチ22』。
 官僚的というかもはや官僚的とも言えないような意味のない書類仕事に精を出す社員たちはもはや不条理を越えてナンセンス。そして、このナンセンスな話にきちんとしたオチがついているのもすごいところ。一読の価値のある短編。

グラックの卵
ハーヴェイ ジェイコブズ Harvey Jacobs 浅倉 久志
4336047383


晩ご飯はチャーハンとキュウイ