盛山和夫『リベラリズムとは何か』読了

 盛山和夫リベラリズムとは何か』を読了。ロールズの『正義論』の解説から、それに対するハーサニやアローの批判、リバタリアニズムやコミュタリアニズムからの批判、そしてリベラリズムのもつ普遍主義や正当化の基礎付け主義への疑問、そこからのリベラリズムそのものに対する疑問と、かなり内容のある本です。
 ロールズの考えやそれに対するリバタリアニズムやコミュタリアニズムの考えを紹介している本は多いですが、この本ほどきちんとロールズの考えについて丁寧に整理している本はなかなかないですし、ハーサニの批判をきちんと取り上げていることで、ロールズが次第にマキシミン・ルールのことを言わなくなり、反省的均衡といった考えに軸足を移していく理由もよくわかります。
 また、第9章と終章で展開されているリベラリズム批判も鋭いもので、リベラリズムの重視する「正義」に多くの場合「中身がない」ことに関連して、

 正義の中身や平等化の中身を具体的に示すことができない理由は、そもそもそれが何であるかを論者自身が知らないからだが、知るための努力を傾けるのを抑制する心理的機制も働いている。具体的な中身を提示すると、必ずや誰か他の論者からあるいは政治的発言に熱心な集団からクレームが立てられるのはわかっている。よくて、完全に無視されるだけど。(中略)
 つまりは、リベラリズムが「正当化できる」と考えて提示する具体的な正義の中身は、提示された途端に熾烈な批判の的となる。とても「正当化できる」というような状況ではない。そのことを、多くの理論家はよく知っている。(319ー320p)

と述べている部分は少し皮肉っぽいですが、その通りでしょう。
 終章での、リベラリズムでは司法的な思考が優勢で、政治による集合的な決定を生み出すプロセスを軽視しているのではないか?という批判もあたっていると思いまし、リベラリズムの考えに賛成であれ反対であれ、読む価値のある本だと思います。

リベラリズムとは何か―ロールズと正義の論理
盛山 和夫
4326653167


晩ご飯はカレーとトマト