2006年の本

 今日は今年の本について。去年は小説とかぜんぜん読めてなかったけど、今年は去年よりは読めたかな。

  • 小説

ジーン ウルフ『デス博士の島その他の物語』
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 一昨年、確かジーン・ウルフの『ケルベロス第五の首』を年間の1位にあげたけど、この中編集もすごい出来。ウルフならではの華麗な文体と凝りにこった技巧が冴えまくりです。


カズオ イシグロ『わたしを離さないで』
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 これも素晴らしい小説。端正で細やかな文体の中に秘められたグロテスクな秘密。リアリズム小説として素晴らしい完成度を誇りながら、なおかつそれを凌駕する秘密があります。


ケリー リンク『スペシャリストの帽子』
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 不思議な語りの中に現れる「生と死の間の世界」。最近の女性作家の中出はピカイチだと思います。


レアード・ハント『インディアナ、インディアナ』
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 詩の断片のような形で語られるある初老の男の人生。「どんな話だ?」と聞かれると答えにくい小説ですが、よい読書体験でした。


阿部和重『ミステリアスセッティング』
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 これはまだ読み途中なんでフライングなんですが、面白い!『グランドフィナーレ』がつまんなかっただけに(まあ、芥川賞を取ったってことは審査員のレベルにあったつまらない小説ということでしょうがないけど)、ちょっと心配しましたが、完全復活。「ピュアなストーリー」とか帯にあるけど、ここまで悪意のある語りは阿部和重ならでは。


 これ以外だと、ちょっと前のものだけどイーリイの『ヨットクラブ』が面白かったですね。

  • 小説以外の本

ロバート・G. クヴァーニス、グロリア・H. パーロフ編『サリヴァンの精神科セミナー』
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 患者に対して、つねにデリケートでジェントルであるサリヴァンの魅力がわかるセミナーの記録。実はこの本には先行の訳があって、それにも関わらず中井久夫が訳したものなんだけど、そこまでこだわって訳したというのも納得する本です。


金子 洋之『ダメットにたどりつくまで』
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 ダメットの著作を読んで、ダメットが結局何を言いたいのかよくわからなかった人には、まさに救いとなる本。特にダメットとウィトゲンシュタインのつながりに関しては教えられるところ大です。


W.G. ライカン『言語哲学―入門から中級まで』
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 非常に丁寧で行き届いた言語哲学の入門書。


斎藤環『生き延びるためのラカン』
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 斎藤環は『家族の痕跡』もよかったけど、ここではようやく単行本になったこの本を。わかりやすく、そしてラカン理論のものの見方がわかる本です。


薬師院仁志『日本とフランス 二つの民主主義』
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 新書では見田宗介の『社会学入門』とか梅田望夫ウェブ進化論』も面白かったけど、今の日本の必要な(?)本
ということで薬師院仁志『日本とフランス 二つの民主主義』をあげます。
 日本では、「リベラル」という言葉が自由主義に対抗することとして持ち出されていますが、これはアメリカ流の特殊な用語法であり、結局は同じ「自由」を標榜することに変わりはない。小泉改革のような自由主義的な改革に対抗するためには「平等」という価値観を持ち出して対抗すべきだというのが著者の考え。
 左派政党は「平等」を実現するために「大きな政府」を目指すべきであり、「減税」や「政府からの自由」を主張するべきではなく、「増税」や「政府の積極的な介入」を主張するべきだという意見は、賛成するかはともかく、まさに今の日本に欠けていた意見でしょう。


晩ご飯は豚汁