『それでもボクはやってない』

 『それでもボクはやってない』をみてきましたが、これは日本人必見の映画!
 映画としては盛り上がりに欠けるとか、カタルシスがないとか、そういう意見も当然あるでしょうが、日本人としては歪んだ司法制度をあますことなく描いたこの映画を見るのはまさに義務。

 周防正行は『Shall We ダンス?』のあと、なんで映画撮らないんだよ?って思ってましたが、彼は映画を撮る前に非常に綿密なリサーチをする人なんでしょうね。この映画を見た司法関係者のブログで一様に「リアルだ」との声を聞きますが、たぶん警察の取り調べにしろ、留置場の様子にしろ、裁判の進行にしろ、まさにこの通りなんでしょう。非常に説得力があります。
 「痴漢を認めないと延々と拘留される」とか「裁判にかかれば99.9%は有罪」とかいう話は僕も知ってましたし、聞いたことのある人は多いと思うのですが、こうしてきちんと見せられるとやっぱり恐ろしいもので、その恐ろしさが描けているというところにこの映画の最大の価値があるでしょう。
 竹中直人を使った笑いのシーンとかがちらっとあるものの基本的には固い映画なんですが、主人公に加瀬亮をもってくることでうまく「ふつうっぽさ」を出して息苦しさ消していますし、加瀬亮の友人の山本耕史の役がうまく観客と映画をつなぐ存在になっていると思います。役所広司の弁護士にも安定感がありますしね。
 
 今日は新宿のオスカーという場末感の漂う映画館で見てきましたが、満席で立ち見もいるほど。この映画のヒットで今の裁判制度に疑問を持つ人が一人でも増えてくれればうれしいと思います。
 また、被害者の人権ばかりが叫ばれ、一番重視すべき司法手続きにおける被疑者の人権が無視されていくような風潮が少しでも見直されるようなことがあればそれに越したことはありません。

 そして、いっこうに盛り上がらず国民の参加意欲も低い裁判員制度ですが、この映画を見れば検察と裁判官の官僚主義のなかで硬直化している今の裁判を変えるために「裁判員になりたい」って人も出てくるんじゃないでしょうか?
 最高裁判所も、ビデオつくったり(うちの学校にもきました)いろんな啓発活動をしたりするよりも、この映画をみせたほうがいいかもしれませんよ。