ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』読了

 これも漫画喫茶からのエントリーなんでそんなにちゃんとは書けないけど、ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』は非常によい。国書刊行会の「短編小説の快楽」シリーズの最初の本なんだけど、さすが国書刊行会。最近ほぼ外れなしですがこれもそう。かなりの大当たりです。
 ウィリアム・トレヴァーアイルランド出身の作家で短編小説の世界ではかなり定評のある作家。この短編集はそうしたトレヴァーの短編の中から12編を選んで訳したものになってます。
 前半は「トリッジ」、「こわれた家庭」などややブラックな感じの作品が並びますが、読み進めていくにつれてその印象はたんなるブラックというよりは、ある種の宗教的な辛らつさを帯びたものになっていきます。このあたりの感覚はちょっとフラナリー・オコナーに通じるものもあって、トレヴァーもオコナーと同じく、カトリックのある種の厳しさのようなものをその創作のベースにしているような気がします。
 収録作の中で圧巻なのが、中篇といってもいい「マティルダイングランド」。アイルランドの元地主のお屋敷とそこから独立した農場に住む一家の末娘マティルダ。彼女とお屋敷の未亡人ミセス・アッシュハートンの交流から始まるこの小説は、戦場の出てこない戦争小説でもあり、そして戦争の恐ろしさを静謐さの中で描いた作品でもあり、そして幽霊の出てこない「亡霊」の物語でもあります。
 短編によっては村上春樹とかを思い起こさせるものもあって、この「マティルダイングランド」の感じも村上春樹的な部分もあるのですが、トレヴァーのほうが凄みがあります。
 また、短編でありながらかなり長い時間を描いている作品が多いのもトレヴァーの特徴。短編でありながら非常に広がりを持った作品を楽しむことができます。
 「短編小説の快楽」シリーズはこれからも続くみたいですが、初っ端がこの面白さとはこれからのシリーズも楽しみ。

聖母の贈り物
ウィリアム・トレヴァー 栩木 伸明
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