クリストファー・プリースト『双生児』読了

 今日は学校の遠足で長瀞の川下りに行ってきましたが、けっこう川下りも楽しいものですね。景色もきれいだし、ちょっとしたスリルんもあるし、なにより涼しげだし。

 クリストファー・プリースト『双生児』を読了。『奇術師』があんまり面白くて、プリーストのこの新刊にも飛びついたわけですが、やっぱり面白い!
 1936年のベルリンオリンピックにボート舵なしペアに出場し銅メダルを獲得したイギリス人の双子ジェイコブ(ジャック)・ルーカス・ソウヤーとジョウゼフ(ジョー)・レナード・ソウヤー。彼らはベルリンオリンピックナチスドイツの副総統ルドルフ・ヘスから銅メダルを受け、その後ジャックはイギリス空軍の爆撃機パイロットに、ジョー良心的兵役拒否者となる。そして、史実として存在する、1941年5月に和平交渉のためにイギリスに単独でやって来たルドルフ・ヘスの謎。結局、ヘスは戦争が終わるまで幽閉され、交渉も行われず、最終的にはニュルンベルク裁判で終身刑の判決を受けるわけですが、「もしヘスの和平交渉が成功していたら世界はどうなっていただろうか?」という疑問に答える小説というのが、この小説の一つのわかりやすい説明です。
 これはいわゆる「改変歴史もの」といういジャンルで、同じような設定の話としてはスティーヴ・エリクソンの『黒い時計の旅』なんかがあります。 エリクソンは「もう一つの世界」をものすごいエネルギーで描き出すわけですが、プリーストは方向性はもちろんエリクソンとは違って、その「もう一つの世界」を描くというよりはありえたかもしれない歴史の分岐、そしてありえるはずのない二つの歴史の重なりというものを双子の運命ととも描いています。
 とにかく小説の構成はかなり複雑。さりげなく書かれた架空の歴史に、入れ替えられた時間軸、さらには現実と空想の混合と、読むほうも相当の注意力を要求されるのですが、それだけに本の最後が近づくにつれ、「あ!」と思って前を読み直すこと多し。前半はミステリー仕立ての冒険小説として、さらに後半ではプリーストの語りの魔術を十分に楽しめる小説です。

双生児
クリストファー・プリースト 古沢 嘉通
415208815X


晩ご飯は茄子とピーマンと豚肉の炒め物