外国人労働者受け入れの長勢私案は政界の対立軸になるか?

 7月の参議院選が「天下分け目の戦い」と言われながら、たいした争点がないまま選挙戦に突入して行きそうな今日この頃。
 最低賃金の引き上げで、民主党が800円〜850円くらいのリアルな数字を打ち出してくれれば、けっこう国民にアピールする争点になったと思うんですけど、「時給1000円」って、いくらなんでも実現性なさ過ぎ…。
 さすがに時給1000円が不可能だって誰でも気付くと思うし、万が一実現しても雇用が失われるだけで、かえって貧困層は増えそう。
 小沢一郎の国民をなめた政策には毎回うんざりさせられるんだけど、小沢一郎の場合は自分がバカだから国民もバカに見えるんでしょうね。

 そんな中で今週出て来たのが長勢法相の外国人労働者受け入れ私案。
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070515ia04.htm

外国人短期就労の解禁案、法相が発表

 長勢法相は15日午前の記者会見で、外国人の研修・技能実習制度を廃止し、新たな短期外国人就労制度創設を柱とする私案を発表した。

 入国・在留管理、雇用管理の体制を強化する一方、専門的技術を持たない単純労働者受け入れを事実上解禁する内容で、法務省に検討を指示した。同省は関係省庁と協議して、制度改正に取り組む考えだ。

 新制度は、許可制による受け入れ団体が外国人の就労希望者を募集し、資金規模などによって定められた受け入れ枠の範囲で、国内企業に紹介する仕組み。受け入れ業種・職種、技能能力などは問わず、就労期間は3年間。再就労は認めず、長期滞在や定住にはつなげない。

 現行の研修・技能実習制度は「外国人労働者への技術移転による国際貢献」を建前としているが、実態は単純労働者受け入れの温床となっている。法相の私案は、単純労働者受け入れを事実上解禁することで、「国内で必要な労働力確保」をはかる狙いがある。研修・技能実習制度をめぐっては、厚生労働、経済産業両省の研究会が現行制度維持を前提に、報告書をまとめている。厚労省は労働関連法令の保護対象外となっている研修期間を廃止し、研修生も労働者として扱うよう求めているのに対し、経産省は研修期間を維持すべきだとしている。

 長勢法相は今後の検討について「各省の意見が出そろい、入国・在留管理体制整備のメドがつけば、(政府全体での)議論を始める態勢を作る必要がある」と述べた。
(2007年5月15日12時52分 読売新聞)

 こういう提言が規制改革関係の審議会とかではなくて大臣から、しかも法務大臣から出て来たってのは大きいと思う。
 もともと、外国人の研修・技能実習制度っていうのは「現代の奴隷制度」ともいうべきひどいもので、技能自習の名の下に外国からやって来た労働者が最低賃金を遥かに下回る水準で単純労働に従事させられるというもので、改善の必要があるものなんだけど、経産省が存続、厚生労働省が研修生を労働者扱いにするという改革案を示しているのに対して、長勢法相私案では「研修」という名目を外して、事実上、単純労働の外国人労働者を受け入れるというもの。
 
 自民党というものは「社会の安定」を願う保守的な人々と「経済成長」を求める企業の利益というものを二つとも追求して来た政党で、今までは経済成長のおかげなどで矛盾することもあるその二つの利益を両立させて来たわけだけど(小泉改革はずいぶんと「経済成長」よりでしたが)、この外国人労働者の受け入れは、「社会の安定」と「経済成長」が真っ向から対立する事案。
 しかも、外国人労働者の受け入れは一回受け入れが決まるとなかなか修正が利かない政策だけに、社会への影響は大きいです。
 
 「移民」や「外国人労働者」はヨーロッパの選挙で最近必ず争点となる問題で、移民国家のアメリカでさえ、ヒスパニック系移民の扱いは近年の選挙の大きな問題となっています。
 こうした中で、自民党外国人労働者受け入れへ動き出すなら、それは参議院選挙の大きな争点になるでしょうし、民主党はこの問題を最大限に利用することができるはずです(民主の内情を考えると「外国人労働者反対」って政策を打ち出すことはない気もしますが)。
 さらに自民よりも右寄りの政党の存在というものも可能になってきます。今まで保守層というものは自民の相取りでしたが、「経済成長」よりも、「地域や社会の安定」を主張する保守政党が「外国人労働者受け入れ反対」という対立軸を掲げて保守層の票を集める事態というものも想定できるでしょう(私見では国民新党はこの問題を利用することで生き残りの可能性が出てくると思います)。

 ただ、安倍内閣ではNHKの受信料の問題とか普天間基地の問題とか、閣僚が勝手な発言をしてそのまま問題が立ち消えになってしまうようなことも多いので、「これもどうなんだか?」っていうのありますけど。