アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』読了

 アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』を読了。出る前から一部ではかなり話題になっていた本ですが、これはすごい本です。この<未来の文学>シリーズの第一作のジーン・ウルフケルベロス第五の首』もすごい本でしたが、すごさの中身がぜんぜん違います。『ケルベロス第五の首』は、その文学的な完成度や構成といったものに驚かされましたが、この『ゴーレム100』はそういう完成度とかは全く無視、そのかわりにSFからミステリー、精神分析ロールシャッハテスト、楽譜、言葉遊び、下品さ、ダジャレ、ジェンダー…と、何から何まで詰め込んだ本です。

 一応、ストーリーとして本の見返しに書かれている分を紹介します。

22世紀のある巨大都市で、突如理解不能の残忍な連続殺人事件が発生した。犯人は、ゴーレム100、8人の上品なミツバチレディたちが退屈まぎれに執り行った儀式で召還した謎の悪魔である。事件の鍵を握るのは才気あふれる有能な科学者ブレイズ・シマ、事件を追うのは美貌の黒人で精神工学者グレッチェン・ナン、そして敏腕警察官インドゥニ。ゴーレム100をめぐり、3人は集合的無意識の書くとそのまた向こうを抜け、目眩く激越なる現実世界とサブリミナルな世界に突入。自らの魂と人類の生存をかけて戦いを挑む。しかしゴーレム100は進化しつづける……。

 このように紹介すると、かなりハードなSFを想像する向きもあるでしょうが、個人的に一番近いと感じたのはピンチョンの『重力の虹』。
 ピンチョンの『重力の虹』も小説としては明らかに無駄が有りすぎるし、詰め込みすぎだし、ストリーもグダグダでよくわかんないし、という感じなのですが、あそこまで大量のガラクタを詰め込んで、なおかつフラフラながらもそれが飛んでいるというところに、すごさがあるし、ある種の感動があるわけです。
 その後、ピンチョン的な手法を用いてさまざまな小説が書かれました。けれどもパワーズの『舞踏会に向かう三人の農夫』はきれいに飛んでみせるものの、実は無駄なものをほとんど載せていない作品ですし、エリクソンの『黒い時計の旅』はものすごいパワーで突き進む傑作ですけど、これまたほとんど無駄なものはなし。一方で、ドン・デリーロの『アンダーワールド』はあらゆるものを詰め込んだのはいいが、少しも飛びはしない!というもの。(私見では、作品の性質とかはちょっと違うけどヴォルマンの『ライフルズ』がもっともピンチョンに近づいた作品だと思う)
 しかし、この『ゴーレム100』はボリュームでこそ『重力の虹』に劣りますが、その実験精神やくだらなさや下品さ
詰め込まれたガラクタの多さでは『重力の虹』に引けを取らず、それでいてラストはそのすべてのガラクタを引き連れて突き抜けてみせるという大技を見せてくれる小説です。
 「空を見よ!」「鳥だ!」「飛行機だ!」「ワシ男だ!」、「あの馬に乗ってるのはなんだ?」「釜だ!」「ゴミ入れだ!」「騎士男だ!」とつづく、くだらなくも爆笑の流れから、ジョイス的な世界へと突き抜けるラストは圧巻!
 「すごい小説」を読みたい人はぜひ!


ゴーレム100
アルフレッド・ベスター 渡辺 佐智江
4336047375


晩ご飯はスパゲッティミートソースとキュウイ