リチャード・パワーズ『囚人のジレンマ』読了

 リチャード・パワーズ囚人のジレンマ』を読了。ベスターの『ゴーレム100』のあとに読んだら、すごい文学っぽい感じがしましたね。
 謎の発作に教われる父エディとアーティ、リリー、レイチェル、エディJr.の4人の子どもたち。それに父の若き日のエピソードやウォルト・ディズニー日系人の強制収容の話が絡んで…、というストーリー。
 パワーズのデビュー作『舞踏会に向かう3人の農夫』と同じように、過去と現在が交互に語られる構成だけど、歴史の部分に『舞踏会に向かう3人の農夫』ほどの広がりがないので、スケール感としてはこちらが劣る。ただ、そのぶん、エディと4人の子どもたちのストーリーは丁寧かつ非常にうまく語られており、解説で柴田元幸が指摘しているように「家族小説」としての側面が強くなっていると思う。
 『舞踏会に向かう3人の農夫』はピンチョンを思わせるような小説でしたけど、こちらはフィリップ・ロスとかを思い出させる感じですね。

 テーマ的にも、冒頭に掲げられた「個人というものがどれだけ重みをもつのか、私は今も迷っている。正しい方向に押せば、相当に重みをもつと思っている。」というT・E・ロレンスの言葉と、個人は相互不信の「囚人のジレンマ」的状況をいかにして抜け出せるか?というはっきりとしたものがあり、構成や分量の割には読みやすい小説と言えるでしょう。
 ただ、個人的な好みとしては少しまとまりすぎていて驚きがないので、もうちょっと歴史の部分にいろいろ詰め込んでもよかったと思います。
 また、「囚人のジレンマ」がタイトルで、マンハッタン計画のことも出てくるなら当然フォン・ノイマンだろう、って思うんですが、ノイマンのことは一言も触れていないんですよね。ノイマンが人間的に魅力のない男だからなのか、ノイマンが頭よすぎるからなのかわからないですけど、個人的にはその部分もちょっと不満。
 
囚人のジレンマ
リチャード パワーズ 柴田 元幸/前山 佳朱彦
4622072963


晩ご飯は牛肉とキャベツとピーマンのオイスターソース炒めと冷奴