フィリップ・K・ディック『ヴァリス』読了

 フィリップ・K・ディックヴァリス』の読了。
 ディックの中の主要な作品の中でこれは読んでなかったんだけど、これは奇妙な小説ですね。
 神の啓示受けたという著者らしき人物の語るニューエイジ的な物語という感じなんだけど、それをかなり複雑な構造で描いているのが特徴。著者自身のドラッグ体験がベースにはなっているんだろうけど、それだけにはとどまらない妙に凝った部分もある。
 「わたし」とホースラヴァー・ファットの奇妙な分裂、2人のキリストと言えなくもないホースラヴァー・ファットとソフィア、「情報」としての神など、何か壮大なビジョンを示しているようにも思えるし、一方で「秘密教典書」などを見ると、結局はいわゆるニューエイジなのかとも思ってしまう。
 まあ、そういった部分については評価も分かれるだろうし、僕もこの作品がディックの作品の中で傑作だとは思わないんですが、この作品にもディックのセンチメンタリズムみたいなが見えて、そこはディックならではの魅力。

 他人を助けられるというのが、長年ファットにとりつく妄想だった。かかりつけの精神科医が、よくなるためにはふたつのことをやめなければならない、とファットに告げたことがある。麻薬をやめ(ファットは麻薬をやめたことがなかった)、他人を助けようとすることをやめなければならない、と。ファットはいまだに他人を助けようとしていた。(9p)

 冒頭のこの部分なんかは、いかにもディック的だし、アンダスンとかあるいはサリンジャーなんかにも通じるアメリカ文学独特の感覚だと思う。

ヴァリス (創元推理文庫)
大滝 啓裕 Philip K Dick フィリップ・K・ディック
4488696058


晩ご飯はトンカツとキュウイ