マシュー・ニール『英国紳士、エデンへ行く』読了

 早川書房のプラチナ・ファンタジイシリーズの第3弾が、このマシュー・ニール『英国紳士、エデンへ行く』。
 第1弾がクリストファー・プリースト、第2弾がケリー・リンクとある程度評価の定まっている人の作品だっただけに、シリーズの真価が問われるのが、このマシュー・ニール『英国紳士、エデンへ行く』だったわけですが、ファンタジイか?という疑問と、少し欠点もある作品なのですが、なかなか読ませる作品でした。


 ヴィクトリア朝時代のイギリス、牧師ウィルソンは“エデンはタスマニアにある”という新説を発表し、医師ポッターと植物学者レンショーとともに、タスマニアへと旅に出る。彼らが乗る船は船長キューリ以下マン島人ばかりの船で実は密輸船という代物。
 一方、彼らが向かったタスマニアでは、アボリジニが徐々に白人に追いつめられ、彼らを保護するための同化政策が行われていた…、というようなストーリー。

 
 20人以上の人物を登場させ、500ページを越えるこの本では、特にアボリジニへの同化政策の歴史が史実をもとにして丁寧に描かれています。
 白人とアボリジニの混血であるピーヴェイという登場人物を中心として、あくまで白人に対抗しようとする彼の母親、白人の教育を受けた彼の弟などの運命。そして、ロブソンという善意のあるある意味で立派な人物が、アボリジニを保護しようとしてその文化を奪い同化を強要していく過程が描かれます。
 この同化政策とそこに見られるイギリス人たちのパターナリズムに関しては非常によく描かれており、いかにタスマニアアボリジニたちが絶滅していってしまったかということがこの小説を通じてわかります。


 一方で、牧師ウィルソンとキュール船長らの船旅はドタバタ的な面白みを狙っているものも、やや冗長かもしれません。
 人種主義者のポッター医師のいかにも当時にありそうな人類学の本の語りなど、面白い面もあるのですが、密貿易のネタとかはもうちょっとコンパクトでもよかったかもしれません。


 ただ、最後のブラックなオチはけっこう好きです。


英国紳士、エデンへ行く (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)
マシュー・ニール 宮脇 孝雄
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