ラナーク―四巻からなる伝記
アラスター・グレイ 森 慎一郎
実は読み途中で700ページ上下段組みというボリュームの半分強を読み終わったところなのですが、これは面白いし、すごい!帯に「『重力の虹』『百年の孤独』にならぶ20世紀最重要文学」ってあるけど、それが煽りとは言えないほどの小説だと思います。
ジョイスの『若い芸術家の肖像』を思わせるようなソーという主人公の青春小説を、カフカ+ミヒャエル・エンデともいうような不思議な異世界を描いたラナークの話でサンドウィッチした構成で、第3巻→第1巻→第2巻→第4巻と進んでゆく物語はとにかく読ませます。
聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)
ウィリアム・トレヴァー 栩木 伸明
現在、世界最高の短編作家とも言われるウィリアム・トレヴァーの短編集。収録作の中で圧巻なのが、中篇といってもいい「マティルダのイングランド」。アイルランドの元地主のお屋敷とそこから独立した農場に住む一家の末娘マティルダ。彼女とお屋敷の未亡人ミセス・アッシュハートンの交流から始まるこの小説は、戦場の出てこない戦争小説でもあり、そして幽霊の出てこない「亡霊」の物語。凄みがあります。
ゴーレム100 (未来の文学)
アルフレッド・ベスター 渡辺 佐智江
何でもありのガラクタを集めて、それでいてラストはそのすべてのガラクタを引き連れて突き抜けてみせるという大技を見せてくれる小説。
ライオンの皮をまとって (フィクションの楽しみ)
マイケル・オンダーチェ Michael Ondaatje 福間 健二
帯に「<官能>と<労働>の物語」とありますが、特に素晴らしいのが<労働>の描写。1910年代から30年代にかけての次々と都市とその機能が建設されていくカナダを舞台にそこで働くさまざまな移民たちの労働が、詩的に描かれている小説です。オンダーチェの代表作『イギリス人の患者』につながる作品で『イギリス人の患者』に登場するハナとカラヴァッジョが登場してますね。
魔法 (ハヤカワ文庫FT)
クリストファー・プリースト Christopher Priest 古沢 嘉通
新刊ということなら『双生児』をあげるべきでしょうし、実際『双生児』も面白かったんですが、そのあと読んだこの『魔法』はさらに面白い!プリーストの仕掛けたメタフィクション的で不思議な円環構造にやられます。
この他だとケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』とかですかね。
今年はベスト3を独占したように国書刊行会のクオリティがすごすぎた!