スティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』読了

スティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』を読了。ミルハウザーの短編集で、相変わらずのミルハウザーワールドが展開されています。
 例えば、あらゆるものを売ろうとする百貨店を描いた「協会の夢」や、地下の奥深くへと悪魔的に発展していく遊園地を描いた「パラダイス・パーク」は、長編『マーティン・ドレスラーの夢』の雛形のような作品ですし、表題作の「ナイフ投げ師」は芸を究めた人物がたどりついた一線を踏み外してしまった在り方を描いたミルハウザーお得意の作品です。
 また、「新自動人形劇場」は『イン・ザ・ペニー・アーケード』所収の「アウグスト・エッシェンブルグ」と同じからくり人形師を描いた作品ですが、人形師の人間にも焦点を当てた「アウグスト・エッシェンブルグ」に対して、こちらの「新自動人形劇場」はより批評的にからくり人形そのもののあり方を探求した作品で、同じテーマを少し違った角度から見たものになっています。


 そんな、いつものミルハウザーワールドの中で、ちょっと違った魅力を発揮しているのが「夜の姉妹団」。 
 町の少女たちが夜にひそかに集まっている様子とその謎を描いたこの作品は、「思春期」というものの本質を鮮やかに切り取っています。

 話しておくれ!と私たちは愛ゆえに声を張り上げる。何もかも話しておくれ!そうすれば私たちはお前を許そう、と。だが少女たちは私たちに何もかも話すことなど望んでいない、一言だって聞いてもらうことを望んでいない。要するに彼女たちは、見えないままでありたいのだ。まさにこの理由によって、少女たちは、彼女たちの本性を明かすようないかなる行為に携わることも出来ない。ゆえに彼女たちは沈黙するのである。ゆえに夜の静寂を愛するのであり、闇を祝う儀式を執り行なうのである。黒い煙のなかに入っていくかのように、彼女たちは秘密のなかに入っていく ー 消えてしまうために。(69p)

 訳はいつもと同じく柴田元幸なので安心して読めますね。


ナイフ投げ師
スティーヴン・ミルハウザー 柴田 元幸
4560092036


晩ご飯は寄せ鍋