アラスター・グレイ『哀れなるものたち』読了

 アラスター・グレイ『哀れなるものたち』を読了。
 http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20080112で紹介した、桁違いのデビュー作『ラナーク』を書いたアラスター・グレイの翻訳が早くも登場。この本も『ラナーク』と同じく、凝った構成でありながら小説本来のストレートな面白さを併せ持つ小説になっています。


 この本は、19世紀のイギリスを舞台にした一種の女性版フランケンシュタインの創造とその女性をめぐる数奇な物語をその夫アーチボールド・マッキャンドレスが描いたものに、その女性からの反論、そして編者としてこの発見された秘密の書を送り出したアラスター・グレイによる序文と批評的歴史的な註によって構成されています。
 このいかにもポストモダン的なトリッキーな構造を持つこの本ですが、『ラナーク』と同じく、この本もそういった仕掛けがメインではなく、なんといっても面白いのは書かれている物語です。


 怪人的な容貌を持つ天才医師ゴドウィン・バクスターによってスコットランドグラスゴーで創造されたベラ・バクスターは20代の女性の身体に幼児のような脳を持つ美貌の女性。その姿に一目惚れをしたマッキャンドレスは彼女に求婚、プロポーズは受け入れられるが彼女は弁護士のウェダバーンとヨーロッパ大陸に駆け落ちしてしまいます。
 彼女の並外れた性欲が引き起こすドタバタ劇は、やがて貧富の差や女性差別といった19世紀の社会問題を取り込み、幼児のように無邪気だったベラは社会問題に関心を持つ一人の女性活動家へと成長していきます。
 そして、再び戻ったグラスゴーで待ち構える、彼女の失われた過去とマッキャンドレスとの恋の行方。
 このあたりのストーリー運びは抜群で、心理学の生みの親の一人であるシャルコーなどの実在の人物なども取り入れながら、19世紀の小説黄金時代の小説に通じる面白さを見せてくれます。

 
 そしてされに付け加わるのが、ベラによる物語への批判と、グレイによる註。これによって物語の真実は宙づりにされ、いかにもポストモダン的な形でこの本は終ります。
 ということで、19世紀の小説と現代の小説を同時に楽しめるのが、この『哀れなるものたち』です。




晩ご飯は肉がハンバーグのビーフシチュー