フリオ・リャマサーレス『狼たちの月』読了

 フリオ・リャマサーレス『狼たちの月』を読了
 スペイン内戦を舞台にした作品ではありますが、この小説では内戦はほぼ終結しており、主人公のアンヘルを初めとする4人の男たちはただひたすら山に隠れながら生き延びます。一人、また一人と死んでいく仲間と絶望的な状況。そんな中で山の厳しい自然に生きる孤独な人間を詩的な文体で描いた作品です。
 凝った比喩と余白をうまく使った構成はまさに詩的と言っていいもので、実際、著者のフリオ・リャマサーレスは詩人から小説家に転じた作家であり、ある意味で「詩的な小説」といっていいでしょう。


 ただ、あくまで表現や使われている比喩が詩的なのであって、ストーリーの運び自体は比較的オーソドックスだと思います。このあたりが読みやすい要因でもありますが、同時にオンダーチェを読んでいる者からすると少し物足りない面がないでもない。
 例えば、http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20070125でとり上げたオンダーチェの『ライオンの皮をまとって』などと比べると、オンダーチェの方が詩の文体で小説を書くという難しいことをやっているような気がします。

 
 悪くない小説だとは思いますが、マニアックな小説読みからすると少し物足りない点もあるかな、という感じです。


狼たちの月
フリオ・リャマサーレス 木村 榮一
4789731871


ライオンの皮をまとって (フィクションの楽しみ)
マイケル オンダーチェ Michael Ondaatje 福間 健二
4891765771