アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』読了

 アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』を読了。
 まずは「おせーよ、ハヤカワ」と言わずにはいられない。まずこの作品が絶版になっていたって事がありえないし、せめて『ゴーレム100』の刊行に合わせてもっと早く復刊してくれよ、と言いたいです。
 けど、やっぱり「SFのオールタイムベスト」なんて言われるように、この本は飛び抜けて面白いし、さらに1956年の作品でありながらいまだに古びていない。
 山形浩生が『ゴーレム100』の解説で、この『虎よ、虎よ!』に触れ、「高踏的でありながら通俗。実験的でありながら娯楽作。華麗でありながら悪趣味。軽薄でありながら重厚。ベスターは〜そして特に『虎よ、虎よ!』は〜あらゆるSF関係者にとって、あらゆるものとなり得た希有な作家であり作品だ」と述べていますが、まさにその通り。
 タイポグラフィーなどの文学実験もしながら、ストーリーとベスターが生み出すイメージの力によって強力に読者を引っ張り、そのままアクション映画にできるような緊迫感の中に、しっかりとした社会批判を組み込む。SF的なアイディアも惜しげもなくつぎ込まれており、ほんとに非の打ち所のない作品と言っていいでしょう。
 とにかく、主人公の人物造形にしろ、数あるシーンのイメージにしろ、登場人物のセリフにしろ、すべてがふつうの小説より強烈です。
 例えば、この作品のヒロイン(?)の次のセリフとか。

 あたくしは生まれたときに殺されるべきだったのよ。あなたは盲目であるってことがどんなものかおわかりになって?人生を、いったん人の手にわたったものとしてうけとるってことが?依存すること、懇願すること、身障者であることが? ”みんな同じところまで引きさげてやろう”あたくしはそれを自分の秘密の生きかたにしたの。 ”自分が盲目ならみんなもっと盲目にしてやろう。自分が無力であるなら、みんなをさらに無力にしてやろう。報復するのよ…すべての人間に”(349p)

 ちなみに帯で大友克洋が「必読!」と書いていますが、これを読むと『AKIRA』のラストとかはこの『虎よ、虎よ!』のラストをなぞってますね。

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2) (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
アルフレッド・ベスター 寺田克也 中田 耕治
4150116342


晩ご飯は豚コンソメシチュー