本田由紀『「家庭教育」の隘路』読了

 本田由紀『「家庭教育」の隘路』を読了。
 「はじめに」と「おわりに」に書かれている本田由紀の暗さというか悩みっぷりから世の母親にとって相当苦しいことが書いてあるのでは?と思いましたが、そんなことはないんじゃないでしょうか。
 本田由紀は家庭教育における「格差」と「葛藤」を中心的なテーマとして扱っていて、確かに前半の母親へのインタビュー記事とかデータを用いた分析の前半ではかなり厳しい結果が出ていますが、逆に後半はそういう「母親神話」を打ち消してくれるようなデータも出てくる。
 だから、読み終えた感想としては「おわりに」での本田由紀とは違って、少し開放感のようなものも感じました。


 この本のデータ分析では、子育てを、「成績が上がるように熱心に指導した」「塾や習い事などに積極的に行かせた」「生活習慣を厳しくしつけた」という項目を重視した「きっちり」型と、「できるだけ外で遊ばせた」「いろいろなことを遊ばせた」「子供の希望はできるだけ聞いた」という項目を重視した「のびのび」型に分けて、そうした子育てが子供にどのような影響を与えたかを分析しています。
 

 母親の学歴が高いほど「きっちり」した子育てをしているケースが多く、母親の学歴が低くなるほど「のびのび」の割合が高くなっていきます(絶対数では「のびのび」子育ても学歴が高いグループのほうが高い。つまり、学歴が高いほど上記の項目すべてに関して積極的だと言えるが、学歴が低い層に比べると「きっちり」が多い)。
 そして、中3の時の成績にこの子育ての影響が表れており、「きっちり」育てられ他子供のほうが成績が良くなっています。さらに、この中3の成績は最終学歴に影響しています。
 ここまでだと、学歴の高い母親による「きっちり」子育てが子供の成績を伸ばし成功させ、自らの学歴や経済的要因により「きっちり」子育ての出来ない母親の子供は成功できない、というような非常に暗い話になってしまうのですが、このあと、少し毛色の違ったデータが出てきます。


 正社員か否かということになると、男子では中3の成績と言った要因は消えてしまいますし(女子は残る)、「無職」であることについては「のびのび」がマイナスの影響、つまり「のびのび」子育てのほうが無職になりやすいというデータが出ています。
 さらに、「のびのび」型は大人になってからのコミュニケーション能力に対する自己評価とポジティブ思考にプラスの影響を与えており、「生活満足度」に関してもプラスの影響がうかがえます。
 

 この結果に対して本田由紀は母親は「きっちり」と「のびのび」の間で葛藤せざるを得ないと捉えるのですが、逆に「のびのび」でもそれなりに子供は幸福になっていけるってふうに考えてしまってもいいんじゃないでしょうか?

「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち
本田 由紀
4326653337


晩ご飯はマグロ丼とキュウリ