『大いなる陰謀』

 新聞屋にもらったタダ券もあるということで、府中のシネコンに『大いなる陰謀』を見に行く。
 ロバート・レッドフォードメリル・ストリープトム・クルーズの三大スターの競演で、『大いなる陰謀』なんていう大作めいたタイトルだと思って期待していくと少し肩すかしを食いますかね。
 実際は90分ちょいの映画で、映画の中で進む時間もほぼ90分ほどという意外にコンパクトな映画なのです。


 この映画を一言で言うと、「今年の大統領選挙に向けた映画」。
 トム・クルーズは若手の共和党議員で、いかにも今のブッシュ政権にいそうな人物。彼はうまくいかないイラク統治から国民の目をそらすためにアフガニスタンでの新作戦を実行させ(議員にそんなことできるのか?と思わなくもなくて、このあたりはいまいちトム・クルーズのポジションがわからない)、それをベテランジャーナリストのメリル・ストリープにリークさせようとする。この2人の「対テロ戦争」をめぐるやりとりがこの映画の一つの話。
 二つ目がアフガニスタンでの作戦失敗で窮地に陥る、ロバート・レッドフォードの教え子でもあった黒人とヒスパニックの2人のマイノリティの兵士の話。
 そして、三つ目の話は政治学の大学教授を演じるロバート・レッドフォードが、最近授業をさぼりはじめたトッドという学生を諭すというもの。世の中をシニカルに眺め、距離をとろうとするトッドに対してロバート・レッドフォードは「何かをする」ことの重要性を説きます。 
 というわけで、この映画の非常にわかりやすいメッセージは、「今度の大統領選挙ではシニカルにならずに民主党に入れましょう!」というもの。実際、メリル・ストリープの勤めるTV局のバックの映像でバラク・オバマらしき人物が映っていたりして、意外と露骨です。


 こう書くと、非常に単純でつまらない映画に思えますし、まあ、そんなによくできた映画でないような気もするのですが、興味深いのは2人のマイノリティの兵士に見られる「行動するということ」の問題。
 2人のマイノリティは非常に理想を持った優秀な学生で、大学でもシニカルにならずに「良き社会」の実現を目指している。
 そんな2人が授業の中で提案するのが「アメリカの高校生全員が1年間休学して、国際平和の仕事や国内の社会問題の解決のために働く」というもの。これって一時期日本でも話題になった「ボランティアの強制」とほとんど同じですよね。
 「何かをする」っていうと、リベラルな陣営からも結局は、ある意味で自由を抑圧するような制度しか出てこない。これはけっこう大きな問題だと思います。
 そして、2人は「何かをする」ために軍に志願しアフガニスタンへと行きます。
 ロバート・レッドフォードはそれを「この戦争は正しい戦争じゃない」と言って止めますが、「何かをせねば」と強く思っている2人を止めることはできません。


 「何かをせねば社会は変わらない!」と言った時に何をすればいいのか?
 そうした難問を改めて教えてくれる映画ではあります。