クリストファー・プリースト『限りなき夏』読了

 <未来の文学>シリーズ、クリストファー・プリースト『限りなき夏』を読了。
 『魔法』、『奇術師』、『双生児』といった長編の中で凝った構成と驚くべき語りを見せてくれたプリーストの短編集。プリーストの語りの魔術は長編でこそ生きるものじゃないか?って思っていたのですが、この短編集に入っている「奇跡の石塚(ケルン)」には驚かされた!


 <夢幻群島(ドリーム・アーキペラゴ)>シリーズという架空の島々を舞台にした連作短編の一つであるこの作品は、主人公が子どものころによく訪れた夢幻群島の一つのシーヴルを叔父の死をきっかけに訪れるという話。荒涼としてうら寂しいシーヴルの情景と、主人公が最後にシーヴルを訪れた時のいとこのセリとの秘密、そして一緒にシーヴルに行くことになった女性警官のベラとの関係。中編と言っていい分量を持つこの作品は読ませる作品なのですが、その途中で「あ!」って思わず声を上げたくなる瞬間が来る。今までの思い込みを見事に覆された瞬間、この瞬間を経験するだけでもこの本を読む価値があると言えます。


 プリーストと言うと、一応SF作家ということになりますが、この「奇跡の石塚」なんかはSF的な要素は皆無で、単純に面白い小説を読みたいと思っている人にもオススメです。
 これ以外の作品ですと表題作の「限りなき夏」と「青ざめた逍遥」は時間をテーマとした叙情的なSF。読んだ感じはイアン・R・マクラウド『夏の涯ての島』なんかを思い出しますが、プリーストのほうがさすがにアイディアが練られていますし、下手な書きすぎがなくうまくまとまっていますね。
 デビュー作の「逃走」と「リアルタイム・ワールド」はちょっとニューウェーヴっぽい感じで、特に「リアル・タイムワールド」はプリーストの中ではかなり「SF」色の濃い作品だと思います。
 この他、「火葬」はホラー、「ディスチャージ」はどんな話かということを説明しづらいですが、短編とは思えないほどのスケール感のある読ませる力を持った作品です。


 プリーストがいわゆる文学の面から今後どのような評価を獲得していくのかはわかりませんが、小説のある種の可能性を切り開いた得難い才能であることは確かだと思います。


限りなき夏 (未来の文学)
古沢 嘉通
4336047405


晩ご飯は野菜炒めと冷奴