メモ・韓国のネット社会から見えてくるもの

 1週間前ほどに朝日新聞で読んで気になった記事がようやくネット上にアップされた(なんですぐ載せないんだろう?)。
 「電脳社会」って国際面のシリーズ記事で、韓国のことをとり上げているんだけど、これがなかなか興味深い。
 韓国って日本以上の単一民族社会だったり(他の民族がいないってことじゃなくて、一つの民族が国民の大部分を占めているって意味で)、日本以上に少子化が進んでいたり、非正規雇用の問題とかも日本以上にすごそうだったり、ある意味で非情に興味深い国なんだけど、ネットにおいてもそうみたい。

http://www.asahi.com/international/weekly-asia/TKY200807080204.html

「サイバー暴力」韓国で深刻 電脳社会(4)

2008年7月8日


 ■牛肉輸入抗議に拍車

 「インターネットカフェで集会のことを知り、友達と一緒に来たんです。米国産牛肉は牛海綿状脳症(BSE)の危険が高いっていうから、給食で食べたくない」

 夕闇が迫る中、ろうそくを手にした制服姿の女子中学生(14)は語った。5月にソウルであった米牛肉輸入への抗議集会でのことだ。

 5月初めから連日続いた抗議集会の初期の主役が、彼女のような中高生だった。インターネットや携帯メールで情報交換し、大挙して集まる。「米牛肉を食べるなら青酸カリを飲んだ方がマシ」。人気芸能人らがブログでこんな風にBSEへの不安を語ったことも拍車をかけた。

 米牛肉をめぐる情報には根拠不明なものも多かった。「BSEは身体に触れただけで感染する」「米国で食べない肉ばかり輸出される」……。「BSE怪談」とも呼ばれた情報は不安をあおり、混乱の拡大に一役買った。

 一方、ネットは権力を監視する強い武器でもある。デモ現場にはノートパソコンを手にした若者。機動隊員の暴行場面などは瞬時に動画でネットに流され、警察側が一時、放水など荒っぽい鎮圧を控えたほどだった。

 「IT大国」「インターネット先進国」と言われる韓国。97年の通貨危機後、IT立国を掲げる政府の主導でネット普及に力を入れた。米調査会社コムスコアの07年の調査では、アジア・太平洋地域の主要10カ国・地域で、自宅や職場での1カ月あたりのネット利用時間、閲覧ページ数とも韓国がトップ。閲覧ページ数は約4500で、日本の約2倍だった。

 討論をしたり自分の意見を言ったり、積極的に自分を表現する傾向が強いと言われる国民性に、ネットがぴったりの手段を提供した――。専門家にはこんな見方もある。

 ■実名暴露し個人攻撃

 だが、ネットの急速な普及は多くの弊害ももたらしている。ここ数年深刻な社会問題になっている「サイバー暴力」がその一つだ。

 陰湿な中傷、実名や電話番号など個人情報の暴露、写真や動画の投稿……。ウソの情報をばらまくケースも多い。ネット上での個人や企業などへの激しい攻撃は、「魔女狩り」とも言われる集団行動につながるケースもある。

 象徴的な事件が起きたのは3年前。ソウルの地下鉄で飼い犬を連れた女性がフンを始末せずに下車した。居合わせたお年寄りが始末するまでの一部始終を撮影したとされる動画がネットに公開された。実名など個人情報がすぐ突き止められ、女性が開いていたホームページには「なんて無礼な人間だ」「ケトンニョ(犬糞女)!」といった非難の書き込みが殺到した。

 同じ頃、ある大手企業勤務の男性も標的になった。自殺した元交際相手の遺族が娘を追悼するホームページを作ると、ネットで話が広まり、男性の実名も流出。勤務先には「辞めさせろ」という脅迫電話が相次ぎ、男性はすぐ会社を辞め、外出もままならない生活に追い込まれた。

 昨年初めには人気歌手や女優が相次いで自殺し、背景にしつこい中傷の書き込みが取りざたされた。

 韓国のネット社会に詳しい崇実大の朴彰昊教授は「韓国はインフラ整備や技術の進歩は急速だったが、使う側のモラルが十分に追いついていない」と指摘する。

 一連の米牛肉問題でも、様々な未確認情報の流布、抗議集会が続く中で政権に理解を示してきた3大紙に広告を出す企業への圧力などを、捜査当局は「サイバー暴力」と位置づけ、激しい論争を招いている。

 警察によると、サイバー暴力の検挙件数は、03年の約5千件から07年は約1万3千件へと急増している=グラフ。泣き寝入りをしないケースが増えたことも、急増の背景にある。

 ■意識改善に市民動く

 相次ぐ「暴力」は規制の強化を招いた。問題は書き込みをする人たちの匿名性にあるとして、昨年7月に導入されたのが「制限的本人確認制」だ。書き込みができるサイトの運営者に、国民一人ひとりが持つ住民登録番号などによる登録時の本人確認を義務づけた。

 表現の自由を損なうとの批判もあったが、政府の担当者は「書き込んだ本人を後で必ず特定できるとなれば、抑止力になる」と説明する。

 だが一度登録すれば書き込み自体はハンドルネームでもできるし、本人確認の対象も大手サイトのみ。住民登録番号がハッキングで流出する可能性など、新たなリスクも高まった。

 そもそも抑止効果はどれほどあるのか。以前から本人確認を実施していた韓国ポータルサイト最大手「ネイバー」によると、悪質な書き込みは減っていないという。「特定地域への中傷など内容も多様。規制やシステムだけで解決できる問題ではない」と担当者は言う。

 「韓国はネットの先進国だが、匿名をいいことに、うそや不正確な情報が拡散している」。李明博(イ・ミョンバク)大統領は6月のソウルでの国際会議でこう述べた。モラルを欠く書き込みなどの横行は、さらに規制を強める口実を与えかねない。

 サイバー暴力をなくそうという動きは市民の側からも出ている。悪質な書き込み「アクプル(悪と英語のリプライをあわせた造語)」の被害を訴え、「ソン(善)プル」を増やそうという運動もその一つ。国民的俳優アン・ソンギさんも共同代表に名を連ね、昨年発足。若者を中心にモラル向上を呼びかけている。

 代表の閔丙哲・中央大教授は言う。「何も考えない中傷がどれだけ人を傷つけるか、ネットを使い始める世代から意識を地道に変えていく必要がある。ネットなしに生活ができない時代ですからね」(ソウル=稲田清英)

 この記事を読んでわかることの一つは、「ネット実名制はあんまり意味がないかもしれない」ということ。
 「2ちゃんねるは匿名だから誹謗中傷がとまらないのだ」、「実名登録制で責任のある言論を」みたいな意見はよく聞くところですが、韓国では実名登録制にしても、誹謗中傷や「サイバー暴力」(やや意味不明な言葉ですが)は根絶できなかったみたい。
 

 そして、韓国でもすぐに「モラル!、モラル!」ってなことになってるみたいですが、たぶん、ネットの中傷とモラルはあんまり関係ないんじゃないかということ。
 この記事では、「ソウルの地下鉄で飼い犬を連れた女性がフンを始末せずに下車した」って事例が載っているけど、「モラル」がないのは、この女性は批判する人よりも、このフンの始末をしなかった女性ですよね。
 この場合、ネット上で批判する人は、どちらかといえば「モラル」の高い人と言えるんじゃないでしょうか?
 自殺した人の交際相手の例もそうだけど、こうしたことをネット上で批判する人は逆に「モラルが高すぎる」と言ったほうが正しいような気がします。

 
 ということで、日本や韓国で見られるネット上の中傷の問題ってのは、「匿名」とか「モラル」の問題ではなくて、いわゆる「世間」とネットの融合作用、あるいは日本や韓国のマスメディアのあり方とかに原因があるんじゃないかなー、という気がしているんですが、しっかりとした議論をする準備はぜんぜんないので、今日はここまで。