南オセチア紛争を知るための新書3冊

 「それにしても長いなー」などとオリンピックを見ていたら飛び込んで来た衝撃ニュース。
 「南オセチア紛争」と書きましたが、ひょっとするとロシアとグルジアの全面戦争に突入してしまうかもしれません。
 日本ではオリンピックの報道に埋もれてしまってリアルタイムの情勢がいまいちわからないのですが、ここ最近、この地域に関する新書を立て続けに読んでいただけに、この地域の”やばさ”はわかっているつもり。
 そこで、新書を3冊紹介しながら、この地域のことをまとめてみる。

 
 まず、この地域を知る上で基本図書となるのが廣瀬陽子『コーカサス 国際関係の十字路』

4087204529コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A) (集英社新書 452A)
廣瀬 陽子
集英社 2008-07-17

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 この本を読むとコーカサスカフカス)の情勢が一通りわかるのですが、その中でも最初の方にとり上げられているのが「未承認国家」の問題。
 「未承認国家」とは旧ソ連の国々にあるアゼルバイジャン内にあるナゴルノ・カラバフ共和国グルジア国内にあるアブハジア共和国、南オセチア共和国、そしてコーカサスからは外れますが、モルドヴァにある沿ドニエストル共和国のこと。これらの国はともにロシアの支援を得て「本国」から独立を目指し、現在事実上の独立を成し遂げている国です。
 今回、紛争の舞台となっている南オセチア共和国はこの「未承認国家」と言われるもので、オセット人(オセチア人)が多く住む国です。ちなみに南オセチアというからには北オセチア共和国もあり、この北オセチア共和国はロシアに属しています。南オセチア北オセチアとの統合を目指しており、1990年にグルジアからロシアへの帰属変更を宣言。これが1991年からグルジア南オセチア武力衝突に発展し、南オセチアがロシアの軍事援助を受けて勝利しています。
 ここでグルジアはロシアと対立することになるのですが、グルジアはこの南オセチア以外にもアブハジアという未承認国家を抱えており、ここでもアブハジアの独立をロシアが後押しするという南オセチアとまったく同じ構図があります(さらにアジャリア自治共和国でも同じような問題がありましたが、こちらは近年グルジアが支配権を取り戻したようです)。
 

 「未承認国家」については廣瀬陽子が『強権と不安の超大国・ロシア』で実際にその中の一つの沿ドニエストル共和国に潜入しレポートしています。

433403439X強権と不安の超大国・ロシア 旧ソ連諸国から見た「光と影」 (光文社新書)
廣瀬 陽子
光文社 2008-02-15

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 国家のようでありながら、対外的には認められていない不思議な場所である「未承認国家」。沿ドニエストル共和国ではロシアの影響が色濃く、ロシア語が話され、表向き住民は旧ソ連を懐かしむ。一方で主権がハッキリしない状況から密貿易の拠点となるなど、こうした地域の複雑な事情がわかります。

 
 さらにグルジアとロシアの関係で無視できないのがチェチェン問題。
 先ほど北オセチア共和国の名前を挙げましたが、記憶のいい人なら2004年に北オセチアチェチェンゲリラが起こしたとされる学校占拠事件を思い起こすかもしれません。
 チェチェンはロシアの中の共和国でしたが、グルジアと国境を接しており、チェチェンゲリラの拠点とされているパンキシ渓谷はグルジア国内にあり、ロシアはたびたび「テロとの戦い」を名目にこの地域への空爆などを行っています。
 一方、グルジアも陰でチェチェンゲリラを支援したりしていたようですが、このことは実際にチェチェンゲリラに従軍した常岡浩介『ロシア 語られない戦争』で触れられています。

4048671863ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記 (アスキー新書 71) (アスキー新書 71)
常岡 浩介
アスキー・メディアワークス 2008-07-10

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 2001年の秋にチェチェンゲリラと行動をともにした著者はパンキシ渓谷からアブハジアへと進軍します。その作戦はグルジアの正規軍の支援のもとに行われたものらしく、著者たちのゲリラはグルジア軍から食糧補給なども受けています。
 つまり、グルジアとロシアは現在問題となっている南オセチアだけでなく、アブハジア、そしてチェチェンで間接的に戦争を行っていたともいえるのです。
 ここからは想像になりますが、これだけ対立があり、またチェチェンゲリラをグルジア軍が支援していう事実があると、プーチン首相やメドベージェフ大統領の思惑とは別に、ロシア軍内部にグルジアを叩きたいという意志があるのかもしれません(もちろん、プーチンにその意志があるというケースも十分考えられるわけですが)。


 さらにグルジア内部の情勢もきなくさい。
 現在のグルジア大統領であるサアカシュビリは、2003年の「バラ革命」でソ連の外相も務めたシュワルナゼ大統領が失脚したあとに国民の圧倒的な支持を受け就任した人物なのですが、彼の採った「親欧米、反ロシア」路線は国民生活の悪化を招き、去年の秋には反政府デモが行われ、政府は全土に非常事態宣言を発令。2008年1月に行われた大統領選挙ではサアカシュビリが大統領に再選されたものの、その支持は盤石とは言い難く、今回の南オセチアへの進攻はサアカシュビリが求心力を取り戻すために仕掛けた博打と考えられなくもないです。
 このあたりの流れは1番目にあげた廣瀬陽子『コーカサス 国際関係の十字路』に詳しいです。


 この他、エネルギー問題との絡み、2014年のソチ五輪との絡みなども考えられますが、このあたりは廣瀬陽子の2冊の本を読んでみて下さい。
 とにかく、何らかの形で早期に戦闘状態が収束するといいのですが…。