舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』読了

 上下巻で1000ページを超える大ボリューム作。舞城王太郎は、2004年の傑作『好き好き大好き超愛してる。』以来、『みんな元気』(文庫版で読んだ)とかやや迷走気味で活動のペースも落ちていたのですが、ここに巨編を引っさげて復活。果たしてその出来は…?


 で、読み終えたわけですが、やはりまだ迷走気味かと。
 構成としては上巻は清涼院流水ばりの無茶苦茶な密室もので、下巻はその密室から抜け出して新たな展開を見せるのですが、結局、「大きな密室」に閉じ込められたままという感触が残りました。
 部分部分はさすがに素晴らしいものがあって、特に下巻の冒頭にある「ムチ打ち男爵」のエピソードは、村上春樹海辺のカフカ』のジョニー・ウォーカーによる猫殺しを思い起こさせるもので、悪や暴力の描写として素晴らしいものになっていると思います。
 ただ、そのあとがもうちょっと地に足をつけた展開にして欲しかった。


 もう少し書きますが、ここから先はややネタバレも含むので嫌な人は読まないでください。


 上巻で起こるパインハウス事件は、今までの舞城作品に登場した名探偵「大爆笑カレー」や「ルンババ12」、そして「九十九十九」なんかが出てくる、謎の上に謎が上書きされてインフレを起こしていくような清涼院流水的な事件。主人公のディスコはここで名探偵の推理を傍観する立場から自ら謎を解決する立場に踏み出し、そして密室の謎を解いてみせます。
 「ひきこもり」が外へと一歩を踏み出した感じで、ここから先は清涼院流水的密室から抜け出した話へとつながるべきだと思うのですが、ここで主人公が時間や空間を飛び越えて活躍するようになってしまうことで、密室の外の世界のリアリティが出てこない。
 というか、外の世界も結局は密室であり、「自分の外部に世界はない」みたいな話になってしまっている。
 上巻の流れからすると、「世界は自分と他人の意思でできている」というような話になるはずが、主人公があまりにすごい力を持ってしまったせいで、主人公に対抗できる他者がいなくなってしまい、自分の意思がすべてになってしまった感じがする。
 主人公に匹敵する力を持つ唯一の存在が主人公を時には殴り倒し、時には助ける水星Cという人物なのですが、彼の謎も十分に解き明かされずに終ってしまっていますし。

 もう少し小さい話で舞城王太郎の完全復活を期待したいですね。


ディスコ探偵水曜日 上 (1)
舞城 王太郎
4104580031


ディスコ探偵水曜日 下 (2)
舞城 王太郎
410458004X