エリザベス・ボウエン『リトル・ガールズ』読了

 http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20080329で紹介した『エヴァ・トラウト』に引き続く国書刊行会のボウエン・コレクションの第2弾。
 『エヴァ・トラウト』は謎めいた主人公のエヴァをめぐる物語でしたが、この『リトル・ガールズ』は1914年にセント・アガサ女学校に通っていたダイアナ、シーラ、クレアという3人の11歳の少女(リトル・ガールズ)とその少女たちの50年後の再会を描いた物語。


 男性が何人か集まると、協調するか対立するかあるいは儀礼的にやりすごすか、このどれかに収束していくことが多いと思いますが、女性の場合はこの3つが入り混じって、どれとも決められないような関係性を示すことがあるような気がしますが、この『リトル・ガールズ』はまさにそのような関係性を描いた作品。
 11歳という思春期前の時代、このくらい年頃の少年の友情を描いた作品というのは、それこそ小説や映画の一つの定番で『スタンド・バイ・ミー』なんかがまさにそれですが、これがエリザベス・ボウエンの描く少女となると単純な友情ものにはならない。
 一緒でいたいという思いと、他者に対する自意識と、そしてそれぞれが持つ秘密。こういったものが複雑に絡み合って少女の関係を形づくります。
 そんな3人はそれぞれの大切なものを金庫に入れてセント・アガサの校庭に埋めます。
 そして、50年後、ダイアナの呼びかけで集まった3人はセント・アガサにその金庫を掘り出しにいくのですが…。


 物語は、3人が再会する第1部に始まり、少女時代を描いた第2部、そして再び50年後の第3部へとつづきます。
 『エヴァ・トラウト』と同じく、ややミステリーっぽい所もあって、金庫に入れられたもの、少女の親たちの関係、そして50年の空白が伏せられてままストーリーが進み、やがてその秘密が明かされたり、ほのめかされたりしていきます。
 少女が金庫を埋めた1914年からの50年間には2度の世界大戦があり、3人はその戦争に大きな影響を受けます。
 戦争によって没落してしまったイギリスのアッパーミドルの暮らしが輝きを放っていた1914年。そこから50年後の少女たちは、50年経っても少女のように辛辣で気まぐれです。
 この物語は戦争によって安定した成熟を奪われた人間の物語とも言えます(訳者は「作品改題」で「成熟」を見ているようですが僕はそうは思えませんでした)。

 私たちは互いにゆだねられてきたのだ、あのかけがえのない日々に、とクレアは思った。互いにゆだねられてきたのは、偶然によってであって、選択によってではなかった。偶然によってであり、偶然の代理人は時間と場所。偶然は選択よりもいい。もっと気高い。その無頓着さゆえに、いっそう気高いのだ。偶然は神、選択は人間。(401ー402p)

 このラスト近くの言葉が非常に印象に残る小説です。


リトル・ガールズ (ボウエン・コレクション)
太田 良子
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