コニー・ウィリス『マーブル・アーチの風』読了

 コニー・ウィリスは実は初めて読んだんですけど、上手いですね。
 <プラチナ・ファンタジイ>シリーズの新作はコニー・ウィリスの日本独自の編集の中短編集『マーブル・アーチの風』なわけですが、アイディア、プロット、人物造形とも非常によくできてる。もう少し長ければこのままハリウッド映画にでもできるんじゃないかと思わせる作品も多いです。
 収録作品は「白亜紀後期にて」、「ニュースレター」、「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」、「マーブル・アーチの風」、「インサイダー疑惑」の5篇。


 近未来、クリスマスの飾り付けやパーティーをコーディネートする業者の女性と謎の依頼人とその甥を描いた「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」、クリスマスが近づくにつれ街の人びとが少しずつ善人になっていく謎を描いた「ニュースレター」。ともにSF的なアイディアをさらりと取り入れた良質のラブコメといった感じで、素直に面白く読めると思います。
 表題作の「マーブル・アーチの風」はちょっと「文学的」な感じを出そうとしすぎる点が気になりますが、最後の「インサーダー疑惑」は、オカルトや霊媒などを批判する雑誌の編集者が、霊媒師に憑依した反オカルトの実在の人物H・L・メンケンと対決するという話で、オカルトの内幕の暴露と懐疑とラブコメが絡まり合う非常に面白い作品。
 謎のセミナーの情報に始まって二転三転する展開は本当に上手いです。

 
 ただ、全体的に上手いんだけど、<未来の文学>シリーズとか、あるいはこの<プラチナ・ファンタジイ>シリーズのケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』なんかに比べると、上手くてわかりやすいぶん、多少物足りない所はある。話も文体もあまりにもクリアーというかで。
 でも、読み物としてはほぼケチのつけられない出来ですね。

 
 ちなみに次の<プラチナ・ファンタジイ>シリーズはチャイナ・ミエヴィルの『ペルディード・ストリート・ステーション』とのことなんだけど、発売は来年の4月…。
 もうちょっと短い間隔で刊行してくれないかなぁ…。


マーブル・アーチの風(プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)
松尾たいこ 大森望
415208958X