ジェフリー・フォード『シャルビューク夫人の肖像』読了

 「姿を見ずに、肖像画を描いてほしい」肖像画家のピアンボに突然声をかけてきたのは、両目が白濁した盲目の男。シャルビューク夫人の使いと称し、法外な報酬を口にして肖像画の製作を依頼してきた。
 屏風の向こうで夫人が語る、過去の話とその声だけで姿を推測するという、その奇妙な依頼に、やがて画家は虜となっていき・・・・・・。
謎の霊薬、奇病の流行――19世紀末のニューヨークを舞台に鬼才フォードが紡ぎ出す、奇怪な物語。

 ジェフリー・フォードは初体験だったのですが、これは面白い!
 19世紀末のニューヨークを舞台に展開するゴシック・ホラーあるいはミステリーというような作品で、まさにゾクゾクとするような面白さがあります。
 妖しさにあふれるシャルビューク夫人と目から血を流して死んでいく女たちの謎は、まるでエドガー・アラン・ポーの世界のようでもあり、不可能な作品に挑む芸術家というモチーフはスティーヴン・ミルハウザーを、またその狂気はオスカー・ワイルドを思い起こさせます。
 それでいて、人の糞便によって未来を予言する男などふざけているとしか思えないようなエピソードもあり、あらゆるジャンルやスタイルを呑み込んでいくような形で物語は進みます。一つ一つの仕掛けやスタイルは既視感のあるものであっても、それを変幻自在に組み合わせ世界をつくりあげていくのがジェフリー・フォードならではの技なのでしょう。
 19世紀から20世紀にかけて活躍したジョン・シンガー・サージェントの「マダムXの肖像」を使った装丁も見事。
 「マダムXの肖像」は本当は顔全体が描かれているのですが、顔の上半分を切り取ったことで、まさしく「シャルビューク夫人の肖像」となっています(ちなみにケリー・リンクの短編「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」のタイトルはこのジョン・シンガー・サージェントの絵の題名からとられているのだと思います)。
 文句なしに素晴らしい装丁ですし、中身の方も文句なしに面白いです。


シャルビューク夫人の肖像 (ランダムハウス講談社 フ 8-1)
田中一江
4270101660