クリストファー・プリースト『ドリーム・マシン』

 クリストファー・プリーストが1977年に発表した長編。彼のキャリアの中では初期に位置する作品といえますが、物語の途中で世界が反転し語り直される『魔法』や『双生児』に通じるような構成になっており、「語り」において魔術師的な上手さを発揮するプリーストの技の萌芽を知ることのできる作品です。
 また、ヒロインとそれを愛する男、ヒロインにつきまとうストーカー的な男という組み合わせは『魔法』とまったく同じであり、世界の仕掛けはまったく違いますが、ある意味で『魔法』のプロトタイプになっている作品にも思えます。


 未来予測のために39人の男女を催眠装置にかけ、彼らの無意識の中で150年後の未来をつくりあげようという投射装置。その投射装置がつくりあげたのはコーンウェル半島がイギリス本土から切り離されて「ウェセックス島」となり、世界が社会主義圏とアラブ首長合衆国に二分された世界。そんな中でデイヴィッド・ハークマンという男が、投射装置で未来へと行ったまま目覚めなくなってしまったことから物語は始まります。
 未来の世界でハークマンに惹かれるヒロインのジューリア、そのジューリアにつきまとい支配しようとし、そして計画に介入にしようとするポール・メイスン。
 この3人の三角関係と未来世界と投射装置の謎を描いたこの作品は、やがて反転をしはじめ、夢が現実を浸食するように世界を揺さぶっていきます。
 さすがに後期のプリーストの作品に比べると、読者を引きずり込む巧さの面では見劣りする所はあるのですが、物語のアイディアと構成は一級品。楽しめる作品だと思います。


ドリーム・マシン (創元SF文庫)
クリストファー・プリースト
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