レーモン・クノー『あなたまかせのお話』読了

 国書刊行会・<短編小説の快楽>シリーズの第3弾はこのレーモン・クノー『あなたまかせのお話』なわけですが、これはまた面白い!
 レーモン・クノーの経歴とか、この本の最後に収録されているインタビュー「レーモン・クノーとの対話」なんかを読むと実験的で小難しい小説なのかとも思ってしまいますが、基本的にレーモン・クノーの小説はナンセンス。例えるなら赤塚不二夫に通じるようなナンセンスさがあります。


 例えば、表題作の「あなたまかせのお話」。
 ゲームブックのように読者が選択肢をストーリーが進んでいくという当時としては斬新な構成なのですが、だんだんめんどくさくなって来た感がありありで、8ページで終ってしまうというもの。

7 かわいいお豆さんたちは暖かい靴下をはいて、ベッドでは黒ビロードの手袋をしていました。
 
 他の色の手袋のほうがいいと思うなら、8へ。
 この色のままでいいなら、10へ


8 お豆さんたちはベッドで青い手袋をしていました。
 
 他の色の手袋のほうがいいと思うなら、7へ。
 この色のままでいいなら、10へ


(195p)

 という具合に、ほんといい加減なんですよね。


 この他にもしゃべる犬とか馬なんかが登場するわけですが、どちらもたいして驚かれもせず、重要なメタファーになってるとも思えず、単にしゃべります。
 特にしゃべる馬が登場する「トロイの馬」は、バーの男女に馬がさかんに話しかけるけど、男女が基本的に無視し続けるといったストーリーで、えも言われぬおかしさがあります。
 また、ほとんど誰にも読まれていない本を書いた男が、なんとかして自分の本を後世に残そうと、無名の人が書いた本を研究する男を支援する「ささやかな名声」なんかは、SFの異色短編とかに通じるものがあります。
 ただ、この短編の場合でも、特徴は短いこと。ほとんど一筆書きで書いたような趣があります。
 
 
 読む前は「なぜ、レーモン・クノー?」とも思いましたが、読んだあとには<未来の文学>シリーズなどを手がけた樽本周馬氏がこの本を<短編小説の快楽>シリーズに入れたということをものすごく納得しました。
 過激や下品にたよらない上質なナンセンスを楽しめる本です。


あなたまかせのお話 (短篇小説の快楽)
塩塚 秀一郎
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