Kanye West/808s & Heartbreakがとんでもない件について

 風邪とか仕事が忙しかったりで発売から1週間遅れで買ったんですけど、もはやラップじゃないし、今までとはまったく別の音楽になっている!そしてそれがすごくいい!
 もちろん、今までのカニエのラップを期待していた人にとっては「なんじゃこりゃ?」的な感想はあるでしょうが、個人的にはカニエの才能の巨大さを思い知った。
 

 今回はすべての曲が歌もので、ジャンルとしてはもはやR&B。
 元から歌ものっぽい曲は多かったですし、2ndのLate RegistrationではR&Bへの深い造詣を見せ、John Legendなんかのプロデュースもしているわけですから、こうした曲を作るというのは十分予想できたのですが、それでもここまで完全に、そしてここまで深く変わってくるとは思わなかった。
 人間の声をシンセサイザーで解析し機械音のような音を奏でさせる「ボコーダー」をほぼ全曲で使用し、いわゆるロボ声のようなものを多用しているんですけど、妙に冷えた感じのするバックの音楽(もはやトラックとは言えない)にそれがハマっている。
 1曲目の"Say You Will"から冷えきった感じの電子音をうなく使いながら、ふつうのR&Bとは毛色の違ったタイトな楽曲を聴かせてくれます。
 5曲目のリードシングル"Love Lockdown"はあえて平板に押さえたような歌唱に、途中でドラムやパーカッションが派手に絡むかっこいい曲。次の"Paranoid"では一転して80年代的なメロディとシンセを使った軽やかな展開を見せ、さらに7曲目の"RoboCop"ではロボ声とストリングス、そして後半では和太鼓(?)が美しい融合を見せるという不思議な世界を、そして"Stronger"を成功させたカニエならでは世界をつくりあげています。
 その後も「壮大ながらタイト」という感じの"Street Lights"、一時期のオルタナ的な暗さを思い出させるような"Bad News"、"Coldest Winter"など最後までダレない。
 ここまで言うと、言い過ぎかもしれないけどRadioheadのOK Computerを聴いたときのような冷えきったかっこよさがある。


 とにかく、HIPHOPファンからは強い非難を浴びそうなアルバムではあるんですが、音楽的な面白さとか新しさといった面では刮目して聴くべきアルバム。50分ちょいというタイトな構成も、ポップスファンからするとうれしいです。
 「新しさ」という点では、今年はTV On The Radioの圧勝かと思っていたのですが、最後になってカニエがすごいアルバムをだしてきてくれました。最終的な評価はもう少し聴きこんでからですけど、間違いなく今年の5本の指、いや3本の指には入るアルバムでしょう。
 

808s & Heartbreak
Kanye West
B001FBIPFA