ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』読了

 週刊文春のミステリーベスト10にもランクインしてますし、何よりもあのスティーヴン・キングの息子ということでも注目を集めているジョー・ヒルの短編集。
 650ページを超えるボリュームで、解説などによると「傑作ぞろい!」とのことですが、個人的には前半の作品は完成度が低いというか、あきらかに書きすぎな気がした。
 「20世紀の幽霊」は確かによくできた話だけど、スティーヴン・スピルバーグを模したスティーヴン・グリーンバーグをだしてくる所が余計だと思うし、明らかに作品の雰囲気を破壊していると思う。
 「ポップ・アート」は確かに「いい話」ではあるんだけど、ラストが書きすぎ。もっとすっぱりと切った方が感動できるでしょう。
 カフカの『変身』のアイディアを借りた「蝗の歌をきくがよい」は単に蝗に変身して終わりですし、正直、買って失敗したかなとも思いました。
 ところが、「末期の吐息」以降の後半戦はいい!
 「末期の吐息」は人間の死の間際の最後の吐息を集めた博物館を描いた短編なのですが、「異色短編」的な味が十分に出ていて、しかも無駄がない。「異色短編シリーズ」とか「奇想コレクション」が好きな人には間違いなく楽しめる作品ではないでしょうか?
 そして、「おとうさんの仮面」も不思議な間隔を味わわさせてくれる作品ですし、収録作の中でももっとも長い「自発的入院」も面白い。
 「自発的入院」は地下室にダンボールの箱で巨大な迷路をつくりあげる主人公の弟の話で、その弟が世話になっている介護コーディネーターがベティ・ミルハウザーというのですが、まさに「ミルハウザー!」といっていいような過剰なこだわりがついには現実から遊離していく世界が描かれます。収録作の中でもナンバー1の出来と言っていいでしょう。
 最初の「年間ホラー傑作選」のような明らかに「ホラー」という作品もありますが、全体的にはホラーというよりは「奇想短編」というべきものが多く、そういった作品が好きな人には楽しめると思います。


20世紀の幽霊たち (小学館文庫)
Joe Hill 白石 朗 安野 玲
4094081348