ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』読了

 まず、最初に書いておきたいけど、扶桑社文庫ってほんとに置いてないですね。
 立川のオリオン書房とかかなりでかい所に行ってもなかったですし、みつけたとこでも新刊なのに2冊しか置いてなかった。大森望訳ということですくなくとも訳者のネームバリューはそこそこあると思うんですけど、ふつうの書店ではなかなか見つけられないかもしれません。


 この『エンジン・サマー』は文明が滅亡したあとの地球を舞台にした小説で、SFと幻想文学が融合したような世界が神話的と言っていいような語り口で語られます。
 ラッシュ・ザット・スピークス<しゃべる灯心草>と言う名前の主人公にワンス・ア・デイ<一日一度>という名前のヒロイン、そして二本足で歩く大きな猫たち。
 こんな不思議な世界ですが、いたるところに<天使>と呼ばれる過去の人間の痕跡はあって、大地には天使たちの残した巨大な道路があり、使い方忘れ去られた機械があり、星条旗の服があります。また、言葉も残っていて、タイトルの「エンジン・サマー」は「インディアン・サマー」(小春日和)がなまったものです。
 物語は、主人公のラッシュ・ザット・スピークスの成長と恋、旅と世界の秘密についてのもので、前半は恋愛小説っぽさで引っ張りながら徐々に世界の謎が明らかになっています。このへんは、ちょっとタイトルも似ている『ハローサマー、グッドバイ」なんかに通じるものもあるかもしれません。
 そして最後にはこの物語の大きな秘密が明かされて、けっこうそれには感動させられるわけなんですが、それまでの伏線の貼り方とか、小さな謎のつながりに関しては少し物足りないというか、わかりにくい所もあるかもしれません(読む人が読めばそういう小さな謎のつながりもわかるのかもしれないですけど)、
 また、神話的とも言えるような寓意に満ちた文体はやや読みにくく感じる面もあります。ただ、読み進めていけば、得られる感動も大きい小説でしょう。


エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)
John Crowley 大森 望
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