キャロル・エムシュウィラー『カルメン・ドッグ』

 国書刊行会の<短編小説の快楽>シリーズで紹介されたキャロル・エムシュウィラーの長編が登場。
 「獣が女に変わり、女が獣になっていく。奥さまはカミツキガメに変身し、美女に変身中の忠犬は、オペラスターになる夢を抱いて家を出る―奇想の女王が描く、愛と不可思議に満ちた現代のピカレスク変身譚。」という非常に変わった長編小説です。
 もっとも、著者のエムシュウィラーによれば、この『カルメン・ドッグ』は「いわば連作短編」とのことで、「あれは『ピカレスク』だから、『本当の』長編小説じゃない。ドミノ(だおし)じゃなくてハードルだから」(「訳者あとがき」より)と述べています。
 確かに、そのもの語りはきちんとした構造を持った長編というよりは、毎回毎回、主人公が冒険にまきこまれる夜ごとに語られる物語のよう。
 主人公の犬のプーチは女性に変身しつつあり、飼い主の妻はカミツキガメに変身しつつあります。飼い主の赤ちゃんのことを守るため、プーチは赤ちゃんを連れて家から飛び出すわけですが、そのあとプーチには、動物収容所に入れられ、マッドサイエンティストに捕まり、雌犬たちに追い立てられ、動物(女性)解放運動に参加するという、波瀾万丈の物語が待ち受けています。
 確かに話としては単純ですが、カルメンに憧れ歌を歌い、時には俳句を詠み、そして赤ちゃんを守る主人公のプーチが魅力的です。
 また、この話はあきらかに動物と女性を重ねあわせたフェミニズム的な話でもあるのですが、その筆致は戦闘的なものではなくユーモアに満ちたもので、現実をホラ話で笑い飛ばすような感じです。
 アメリカでは一時絶版でしたが、ケリー・リンクと夫が主催する出版社から再版されたとのこと。確かにケリー・リンクなんかにも通じるものがありますね。


カルメン・ドッグ
畔柳 和代
4309205100