映画の『ベンジャミン・バトン』を見て、「絶対原作は違う感じの物語なんだろうなー」と思って原作を読んでみましたが、やっぱりぜんぜん違う話でした。
ちなみにタイトルはフィツジェラルドと書きましたが、これはこの角川文庫の本の表記がそうだから。個人的にはフィッツジェラルドのほうが馴染んでるんで、以下はフィッツジェラルドで書きます。
このフィッツジェラルドの原作は、年寄りに生まれて若返っていく男のある種の滑稽さ、例えば、老人時代に入った幼稚園では眠くてしょうがなかったとか、髪を染め忘れて大学で入学を拒否されるとか、子供の姿で軍隊に復帰しようとして追い返されるとかそんな姿が描かれます。
そんなベンジャミンの人生の中で、印象的なのは父親との和解というか父親に認められるところ。
老人の姿で生まれたベンジャミンは地元の名士の父にとっては「恥」以外の何者でもありませんでしたが、ベンジャミンが若返り、ちょうど父と同じような年齢となった頃、父に仕事上のパートナーとして認められます。
けれども、やがて子供となっていくベンジャミンは自分の息子から「恥」と思われ、その一生を終えます。
この小説の最後の部分を読むと、人生は何かを失っていくことであり、それはたとえ逆向きの人生であっても変わらない、というフィッツジェラルドの考えが伝わってきますね。
以下、その他の収録作を簡単に。
- 「レイモンドの謎」
フィッツジェラルドが13歳の時に書いた処女作。ミステリーですが、処女作という以外の価値はあまりないかと。
- 「モコモコの朝」
犬を主人公にした変わった小説。口語っぽい訳文のせいか少しサリンジャーを思い出しました。
- 「最後の美女」
いかにもフィッツジェラルド的な作品。南部を舞台にもう失われてしまった輝かしい青春が描かれます。また、第1次大戦がアメリカの青年にもたらした戦争への高揚感、そして宴のあとの寂しさを見事に描いた作品です。
- 「ダンス・パーティーの惨劇」
これはなかなかよくできたミステリー。これまた南部が舞台でミネソタ出身のフィッツジェラルドの南部へのこだわりを感じさせます。
- 「異邦人」
アフリカやヨーロッパを旅しながら何かを失っていく若いアメリカ人の新婚夫婦。そして最後はややホラーっぽく終ります。これもいかにもフィッツジェラルドなんだけど、ラストが不吉です。
- 「家具工房の外で」
父と娘の楽しい会話。楽しい小品ですが、さいごの終り方がフィッツジェラルド的なのかも。