『グラン・トリノ』

 クリント・イーストウッドの役者としての最後の作品というふれこみですが、確かにこれは近年のイーストウッドの集大成とも言える作品。文句のつけ様のない完成度のある作品です。
 朝鮮戦争に従軍し、フォードの工場で働いていたという、いかにも「アメリカ的」なイーストウッド演じる主人公が隣に住むようになったモン族(ベトナム戦争でたぶんラオスを追われた)の一家、そしてそこの息子のタオとの交流を描いた物語。


 イーストウッドにも本当の家族はいるのですが、イーストウッドの偏屈さもあっていずれも疎遠。そんなイーストウッドがタオと疑似家族的な関係をつくっていきます。
 このあたりは『ミリオンダラー・ベイビー』を思い起こさせます。『ミリオンダラー』ではヒラリー・スワンクの本当の家族よりもイーストウッドとの絆の方がより美しいものとして描かれていましたが、この『グラン・トリノ』でも、同じように疑似家族的な絆に重きが置かれいます。もっとも、『ミリオンダラー』に比べると、本当の家族の描き方はずいぶんとマイルドで、単純な否定の対象ではないです。
 

 また、戦場での記憶がこの映画の行方に大きな影響を与えるわけですが、これは『父親たちの星条旗』から持ち越したテーマ。
 『父親たちの星条旗』では、確か「真の兵士は戦場の出来事を語ったりしない」というようなセリフがありましたが、この映画では戦場での出来事が重要なシーンで語られ、その経験がラストを規定しています。ただ、それでもその戦場での出来事は懺悔の場でまとまって語られたりはしないわけで、非常にうまく、そして兵士の倫理を壊さないような形で使われています。


 設定的にもこの映画には面白い面があって、いかにも「アメリカ的」と書きましたが、イーストウッドの役はポーランド系で、周囲の友人もイタリア系やアイルランド系。そしてイーストウッドカトリックアメリカで主流のプロテスタントではありません。
 いわゆるWASPが出てこない映画は、ある意味でアメリカのマイノリティの姿。あるいはマイノリティとしてやってきた移民たちが積み重なって出来たアメリカの姿を描いているとも言えるでしょう。


 と、非常に深くていい映画なのですが、個人的には『チェンジリング』のほうが衝撃的でした。『チェンジリング』のほうが画面の力に圧倒された感がありますね。
 この『グラン・トリノ』は、イーストウッドの作品だと少し『パーフェクト・ワールド』に似てます。『パーフェクト・ワールド』も大好きな映画なんですが、少し甘い。
 この『グラン・トリノ』も、最近のイーストウッドの作品に比べると少し甘い。
 すごくいい映画ですが、「今年のベスト1は?」と聞かれれば、たぶん『チェンジリング』の方をあげます。あの死刑のシーンは忘れられない!


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