『スラムドッグ$ミリオネア』

 これは面白い!
 アカデミー賞も納得ですし、ダニー・ボイルに『トレインスポッティング』の時のスピード感が帰ってきた!
 『28日後...』とか、その後も面白い作品を撮っていたダニー・ボイルですが、全編疾走し続けた『トレインスポッティング』の興奮はなかった。まあ、好景気とともに音楽をはじめとしてすっかりつまらなくなってしまったイギリスではもうあのスピード感は無理かな、という感じもありました。
 ところが、今回、インドのムンバイのスラム街であのスピード感が復活。オープニングのスラムの子どもたちが逃げて行くシーンから画面にエネルギーが溢れ出します。


 お話はご存知の通り、「クイズ・ミリオネア」で2000万ルピー(現在だと1ルピー=2円くらいなので4000万円)を獲得しようとするスラム育ちの青年ジャマールの話。クイズの問題がことごとくジャマールの今までの苦難の人生に関わっていて、ジャマールはどんどん正解を重ねるというご都合主義的な展開ですが、そこにインドのスラムの現実がカリカチュアされた形で詰め込まれている。
 子どものころに宗教対立で親を失ったジャマール、その兄サリーム、そして途中から一緒に行動する少女ラティカ。
 おそらくスラムの現実はサリームの世界で、ほとんどの子どもたちがろくな運命を辿らないのが現実なのでしょうけど、この映画ではその現実を「クイズ・ミリオネア」という装置を使った現代のおとぎ話で突き抜けてみせる。
 もちろんこれを「現実的じゃない」と退けることも可能なんでしょうけど、スラムの子どもたち、あるいはすべての子どもたちはこういう「おとぎ話」を夢見ているんじゃないかな?
 そして、見ている観客もそうした子どもの可能性をほんの少しでも信じているから、ラストのジャマールとラティカの子役のダンスシーンに感動できるんでしょう。


 あと、特筆すべきは音楽。
 音楽は『トレインスポッティング』と同じように新しさと疾走感があって、変な東洋趣味とか、変に重々しいものを使ってない。これがまた物語を加速させる大きな要因。
 軽快な音楽に沿って、「この次はどうなるの?」という形でストーリーが進む。まさに「おとぎ話」の面白さを映画にしてみせた作品です。